第12話 贈り物
やっとの思いで落ち着きを取り戻した週明け。
会社に行き、社長にお詫びとお礼のお菓子を手渡していた。
すると社長は「有給使って少しゆっくりしなさい」と言い、ポケットから封筒を出してくる。
中を見ると、1泊2日の温泉旅行ペアチケットが入っていて、思わず社長を見てしまった。
「これって…」
「本当は妻と行こうと思ったんだけど、都合が悪くなってね。 せっかくだから、のんびりしてきなよ」
「いえ、そうじゃなくて…」
「遠慮しなくていいから。 ほら、仕事もどれ」
追い出されるように社長室を後にし、不思議な気持ちでいっぱいになっていた。
…前に夏美と温泉行きたいって言ったけど、こんなピンポイントで?…
ただの偶然かもしれない。
けど、こんなにも偶然が重なると、不安のほうが勝ってしまい、恐怖で震えそうになってしまう…
部署に戻った後、自分のデスクにつくと、夏美が「顔色悪いよ?」と切り出してきた。
「大丈夫… だと思うんだけど…」
「本当に? 無理しないほうがいいんじゃない?」
「ううん。 大丈夫になる」
そう言い切った後、仕事を再開させていた。
定時後、夏美を飲みに誘い、大学時代にバイトをしていた居酒屋へ。
カウンターに二人並んで座り、チケットを見せると、夏美は「ドンピシャじゃん!」と声を上げていた。
「ここのところ、こんな事ばっかりで怖いんだよね…」
「引き寄せの法則なのかな?」
「ケチャップ引き寄せたってこと?」
「それは… なんか違うか…」
「頭で考えたことが、近いうちに現実になるんだよね… 早いと10分後には現実になってる」
呟くように言うと、マスターが「羨ましい話だな」と会話に入ってきた。
「羨ましい?」
「だって欲しいって思ったことが実際に手に入るんだろ? そりゃ羨ましいだろ。 温泉行きたいって思ったら、チケットもらって、金欲しいって思ったら金が入ってきたし」
「婚約解消したけどね」
夏美がボソッと言うと、マスターは笑いながら切り出してきた。
「結婚してからだと色々大変だし、『結婚する前に気づけて良かったぁ』って思わなきゃ。 浮気は病気の一種だから、1回したやつは何回でもするぞ」
「そっか…」
そう言いながら飲み物を一口飲むと、夏美が「マスターの焼き鳥欲しいなぁ」と笑いながら言い、マスターは焼き鳥を焼き始めた。
その後も飲みながらマスターと話をし、気が付くと知らない人と話していた夏美は、カウンターに突っ伏し、寝息を立てようとしていた。
「あーあ。 なっちゃん、潰れちゃったねぇ」
マスターは苦笑いを浮かべながら切り出してくる。
「潰れたいのはこっちだっつーの」
軽く不貞腐れながらボソッと言うと、マスターが笑いながら切り出してきた。
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。 夏美の家近いし」
そう言った後、お金を払い、夏美の腕を担いで店を後に。
自由の利かない夏美を担ぎ、ふらつきながら歩いていると、バランスを崩し、しゃがみこんでしまった。
夏美はうなり声をあげるだけで、立ち上がろうとはしない。
「もう… ちゃんとしてよ…」
ため息交じりにつぶやき、夏美の腕を担いでゆっくりと立ち上がったんだけど、急に夏美の体が軽くなり、ふと見ると松崎君が夏美の腕を担いでいた。
「あれ? どうしたの?」
「すぐそこで部長と飲んでた」
「部長は?」
「タクシーで帰ったよ。 つーか、今何時だと思ってんの? 22時過ぎだぜ? 普通に帰るだろ」
「そっか。 もうそんな時間か…」
「ったく。 送るんだろ? 手伝うよ」
「珍しく優しいじゃん」
「置いて帰るぞ」
「ごめん! 嘘!!」
冗談を交えながら夏美を担いで歩き、夏美のアパートまで。
アパートに入り、夏美をベッドに寝かせた後、松崎君と二人で駅に向かっていた。
他愛もない話をしながら歩いていると、背後から体当たりをされて倒れそうになってしまい、松崎君が受け止めてくれたんだけど、体当たりをしてきた男性は、私をチラッと見ただけで、足を止めることも、声をかけることもなく、急ぎ足で歩き続ける。
「なんだあいつ…」
「気にしない気にしない。 ありがとね」
苛立ったように呟く松崎君に笑いながら言い、駅に向かっていた。
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