第11話 解消

悟の手を振り払った後、悟はキョトーンとした様子で私を見てきたんだけど、問題の吉崎さんを含めた山賀さんたちは「婚約者と喧嘩かぁ?」と言いながらゲラゲラ笑うだけ。



…何が楽しいんだか…



何食わぬ顔で笑っている悟たちを無関心のまま見ていると、松崎君が切り出していた。


「何が面白いんすか?」


「婚約者との喧嘩なんて、笑い飛ばすのが定石だろ?」


山賀さんたちはそう言いながらゲラゲラ笑っていたんだけど、松崎君はスマホを取り出し、「これでも笑えますか?」と切り出した。


松崎君のスマホ画面には、悟と吉崎さんが抱き合っている姿が映し出され、吉崎さんの悩ましい声までもが流れ始めている。


それを見た瞬間、山賀さんたちは笑いを止め、悟と吉崎さんから距離を置くように、ゆっくりと離れ始める。


黙ったままその場を後にしようとすると、悟が私の腕を掴み「誤解だ!」と切り出してきた。



…誤解? この人、何言ってんの?…



あまりにも無神経で身勝手な態度にムカついていると、坂崎さんが切り出してくる。


「あかりちゃん、二人に慰謝料請求しなよ。 彼とは婚約してるんだし、この期に及んで誤解なんて通用するわけないじゃん。 証拠もあるんだし、泣き寝入りすることないよ」


「…そうですね。 そうします」


ハッキリとそう言い切った後、悟を振り切りながらマイクロバスに乗り込み、車が出発した後、松崎君に切り出した。


「なんで動画撮ってたの?」


「ん? なんとなくだよ」


松崎君がため息交じりに言い切ると、部長が「飲みなおすか!」と大声で切り出し、いつも行っている居酒屋に向かっていた。



翌日の昼過ぎ。


悟のお父さんから電話があり、何度も謝罪をされていた。


…私から連絡した訳でもないし、悟が言うわけもないのに何で?…


そう思っていると、悟のお父さんが切り出してきた。


「昨日、仕事帰りに飲みに行って、たまたま悟と腕を組んでいる女性を見かけたんだ。 その場で問い詰めたら… 本当に申し訳ありません! 弁護士費用もこっちで払うし、悟には誠心誠意償わせる。 本当に申し訳ありません」


悟のお父さんは、悔しそうな声で言い切り、何も言えないままでいた。


悟のお父さんは、私の実家にも電話をし、お父さんに謝罪をしたようで、お父さんは「辛いだろうから、弁護士の手配はこっちでする。 全部任せなさい」と、寂しそうな声を上げるだけ。



その翌週には弁護士を挟み、悟と悟の両親と話し合いをしたんだけど、「婚約はしてない」と言い切る悟に対し、お互いの両親は「婚約してるし、結納も済ませてる」と言い張る始末。



…婚約も結納もまだなはずなんだけど 顔合わせの食事をしただけで、結納済みってことになるの?…



互いの両親と言い合う悟を、完全に冷めた目で眺め、疑問に思っていた。


互いの両親が「結納済み」と言い切り、悟の「結納はしていない」と言う主張はあっけなく覆され、慰謝料は一括で振り込むことになっていた。


何度話し合っても、どんな証拠を見せたとしても、悟は自分の浮気を認めなかったため、弁護士が危機感を覚えたようで、私に対しての接近禁止令までもを出す羽目に。



悟の両親は「相手の女からも取りなさい」と切り出し、後日、話し合いの場を設けることになっていた。



話し合い当日。


弁護士に言われ、その場に同席したんだけど、吉崎さんは「婚約してるなんて知らなかった」と言うばかり。


けど、会社の人全員が私のことを『悟の婚約者』と呼んでいたし、二人とも指輪もしていたことから、知らないと言い切るには無理があることを弁護士が告げたんだけど、吉野さんは諦めることをせず。


弁護士が『両親を呼んで話し合いましょう』と切り出すと、吉崎さんは諦めたように『婚約者の存在』を知っていたことを認め、慰謝料を一括で請求されていた。



部屋を退出する間際、弁護士の目の前であるにも関わらず、吉野さんは私に向かい「殺す」と言ってきたことが引き金になり、脅迫罪が追加され、更には私に対しての接近禁止令を出されていた。



翌週には、二人から慰謝料の振り込みがあり、問題が解決したことに対してほっと胸をなでおろしていた。


もっと時間がかかるかと思いきや、お互いの両親がこちらに味方してくれたせいか、わずか1か月足らずで解決。



通帳に記帳された金額を見ながら、ふと、飲み会直前、マイクロバスに乗り込むときに『現金のほうがいいなぁ』と考えていた事を思い出していた。



…まさかねぇ…



そう思いながら、悟からもらった指輪を外し、ごみ箱の中に投げ捨てていた。

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