第27話 届け物

痴漢を働いた男性が自傷行為をした数日後。



中田ジムに追加発注されたTシャツを届けに、滝川君と二人で中田ジムへ向かっていた。


滝川君は興奮した様子でハンドルを握り、ボクシングの話ばかりをしてくるばかり。


「…一人で行けばよかったのに」


小さくつぶやくように言うと、滝川君は笑顔で答える。


「ダメっすよ! 俺、興奮して余計なことを言っちゃいそうだし、優秀なストッパーに居てもらわなきゃ!」


「私、忙しいんだけど…」


「大丈夫っす! あかりさん作業が速いし、すぐに済みますよ!」


『なにが?』と言いたいのをグッとこらえ、車に揺られ続けていた。


ジムの脇にある駐車場に車を止め、滝川君は段ボールを抱え、私は大きな紙袋を持ってジムの中にある事務所へ。


輝くベルトが飾られた、大きなショウケースの前にあるソファに座ると、白髪交じりの男性が事務所に入るなり切り出してきた。


「滝川君、いつも悪いねぇ」


「いえ、これくらいお安い御用ですよ! あ、僕のサポートをしてくれてます池内あかりさんです」


挨拶をしながら名刺を渡すと、男性は名刺を受け取った後に笑顔で切り出してくる。


「ご丁寧にありがとうございます。 オーナーの中田英雄です。 何? 滝川君、こんな綺麗な人がサポートしてくれてんの?」


「娘の千歳さんだって綺麗じゃないっすか」


「あいつは駄目だ。 子供産んだらさらに狂暴化しやがってよぉ…」


「元気で良いじゃないっすか」


滝川君がそう言い切ると、事務所の扉が開き、汗だくで、トレーニングウェアに身を包んだ男性が中に入ってきた。


「あ、滝川君だ」


「奏介さん! ロードワークっすか!?」


「ああ。 子供らが学校行ってる間しかトレーニングできないからさ」


「この前の試合、マジ感動しましたよ! とうとう3階級制覇っすもんね!! おめでとうございます!!」


「ありがと。 つーか仕事いいのか? 怒られんじゃね?」


滝川君はハッとした表情をした後、ゆっくりと私の顔を見てくる。


無言で笑顔を見せると、滝川君は慌てたように仕事の話を切り出した。



しばらく仕事の話をしていると、事務所の扉が開き、女性が男の子を抱え、中に入ってくる。


「奏介、ごめん、ちょっと見てて」


「ん? どっか行くのか?」


「お米買ってくる。 最近、4人ともめっちゃ食べるから、10キロだけじゃ1週間持たないんだよ」


「俺行く?」


「ううん。 トレーニングだと思って行ってくるよ。 滝川君、ちゃんと働けよ?」


「はい! 千歳さんお気をつけて!」



その後も、事務所に入ってくる人みんなが滝川君の名前を呼び、気さくに話しかけていた。



…滝川君、人気者なんだ。 ちゃんとコミュニケーションも取れてるし、信頼されてるって感じ。 ここは滝川君がいれば大丈夫だな…



少しホッとしながら話を続けていたんだけど、向かいに座る英雄さんは、小さな男の子によじ登られ、正直、仕事の話どころではない。


「滝川君、そろそろ…」


そう言いかけると、英雄さんが切り出してくる。


「ああ、いつものことなんで気にしないでください。 うちの孫たち、母親に似て狂暴なんすよ。 父親も狂暴か…」


「俺? 俺、リング外では大人しいっすよ?」


「どこがだこのヤロ… 大体お前はもっと計算して子作りしろっつーの! 5人も作りやがって…」


「双子が2連続だったんだから仕方ないじゃないっすか!」


「あの! 予定の時間となってしまいましたので、詳細は明後日までにご返答をするという形でよろしいでしょうか?」 


口論になりそうな二人を遮って切り出すと、二人はポカーンとした表情で「は、はい…」とだけ。


挨拶をした後、事務所を後にしようとすると、幼い男の子は英雄さんに抱えられ、「ばいばーい」と言いながら手を振ってくる。


あまりの可愛らしさに笑みがこぼれ、思わず「ばいばーい」と言いながら手を振った後、改めて挨拶をし、滝川君と二人で駐車場に向かっていた。



…子供か。 吉崎さん、妊娠してたって話だけど、いつくらいに産まれるのかな…



車に揺られながら小さくため息をつき、ぼーっと窓の外を眺めていた。

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