第2話 隔週

定時後。


帰り支度をしていると、滝川君が切り出してきた。


「あかりさん、飲みに行きません?」


「あ、ごめん。 今日はちょっと…」


そう言いかけると、夏美が横から切り出してくる。


「悟?」


「うん。 今日は来る日だから」


「大学時代から続いてるんでしょ? どれくらいになるんだっけ?」


「んと、5年かな?」


「いきなり『寿退社』とかやめてよね。 一人いなくなると、月例行事増えるんだから」


「考えておく。 お先に失礼します」


そう言った後、部署を飛び出し、急ぎ足で駅に向かう。



電車を乗り継ぐこと30分。


駅に着いた後、通いなれたスーパーに寄り、買い物を済ませた後に6階建てのマンションへ。


エントランスにあるオートロックを開け、エレベーターに乗り込んだ後、5階のボタンを押す。



会社の家賃補助と資格手当があるし、悟のように都心に住んで居る訳ではないから、少し背伸びをしたこのマンションに住めている。


駅から自宅に着くまでの間に、スーパーとコンビニがあるし、幸運にも駅から徒歩5分と言う好立地な場所に自宅があるから、通勤もかなり楽。


おかげでどんなに嫌なことが起きても、『辞める』という選択肢が真っ先に消えるんだけど…



『503』と書かれた自宅のドアを開けると、通路の奥にある部屋から光が放たれていた。


リビングに入ると、悟がスマホを弄りながら缶ビールを飲んでいる。


「あれ? もう来てたんだ」


「今日、直帰だったからそのまま来た」


「そっか。 すぐ準備するね」


そう言った後、隣の部屋で部屋着に着替え、慌ててキッチンへ。


キッチンで料理をしていると、悟が切り出してくる。


「そういや、前に飲み会で会った山賀先輩って居たじゃん? 再来週の飲み会に『婚約者連れて来い』って言うんだけどどうする?」


「えー。 山賀先輩って、あのごつい体育会系の男の人でしょ? めっちゃ絡んでくるじゃん… それに私、悟の会社と無関係だし」


「まぁいいんじゃね? 奢ってくれるって言うし、同業なんだしさ」


「同業って… うち制服とユニフォームの製造販売だよ? 悟みたいなメーカーとは違います」


「そう言わないでさぁ…」


「あ、再来週無理だわ。 接待入ってる。 ごめんね」


悟はため息交じりに「そっか… 残念」とだけ言い、スマホに視線を落としビールを飲んでいた。



作った夕食を食べていると、トマトソースが跳ねてしまい、白いTシャツに赤いシミを作り出す。


「あーあ。 それ落ちねぇぞ」


「部屋着だからいいよ。 問題なし」


そう言いながら夕食を食べた後、交代でお風呂に。


悟がお風呂に入っている間に洗濯を済ませ、二人で少し話しながら飲んだ後に就寝。



5年も付き合っているんだけど、悟の会社が遠いから、まだ一緒には住んではいない。


けど、お互いの両親には紹介済みだし、たまたま同じ場所で忘年会があった際、顔を合わせたから、お互いの会社の人たちも顔見知り。


指輪だってもらってるし、秒読みだとは思うんだけど、悟が実家に住みながらお金を貯めているため、お互いにあと1歩を踏み出さないまま、実家住まいの悟が隔週で通っていた。


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