第30話 想い

修哉さんと匠さんの3人で駅まで歩いた後、匠さんは別のホームに行ってしまい、修哉さんと二人きりに。


自宅最寄り駅が同じだから、二人きりになるのは当然なんだけど、一番話していた匠さんがいなくなってしまったことで、自然と沈黙が訪れ、二人並んで電車を待っていた。


人ごみに紛れながら電車に乗り込み、黙ったまま自宅最寄り駅へ。


改札を抜けてすぐ、修哉さんが切り出してきた。


「送ろうか?」


「いえ、すぐそこなので大丈夫です」


「そっか。 じゃあまた」


修哉さんはそれだけ言うと、別方向へ歩き始めてしまう。


小さくため息をついた後、まっすぐに自宅へ向かい、シャワーを浴びていた。


…送ってもらえばよかったな…


小さくため息をつきながらシャワーを浴び終え、ソファに寝転がっていた。


頭の中が修哉さんで埋め尽くされる中、ふと名刺を貰ったことを思い出し、勢いよく起き上がった後にカードケースを漁り始めた。


…あった…


修哉さんの名刺を眺めながらソファに寝転がり、大きくため息をついた。


…なんでこんなに気になるんだろ。 名前と仕事以外のことは何も知らないのに。 なんで修哉さんの声が懐かしいって思うんだろ。 最近変だな…


大きくため息をつくと、名刺が手から離れ、カーペットの上に力なく落ちる。


少しだけ起き上がり、名刺を拾おうとすると、名刺の裏には電話番号とラインIDが手書きで書かれていた。



…これって修哉さんの番号? え? 今まで気づかなかったけど、ずっと書いてあった? 名刺の裏に書くって、かなり手馴れてる? 実はナンパしまくってるとか?…



不安に思いながらも手書きの文字を見てため息をつき、スマホを手に取らないまま、ベッドにもぐりこんでいた。



週明け、会社に行き、作業をしていたんだけど、ふと頭の中に声が響いてきた。


≪会いたい≫


思わず手を止め、周囲を見回したけど、周囲には夏美と紗耶香ちゃんがいるだけで、男性陣はみんな外出中。


「ん? どうしたん?」


夏美はキョトーンとした表情で聞いてきたんだけど、「なんでもない」と答えるのが精いっぱい。


何度も頭に響いてくる声を、気にしないふりをし続け、お昼休みを迎えていた。


「ねぇ、顔色悪いよ?」


夏美はお弁当を食べながらそう切り出してきたんだけど、何も言うことができず、食事もとれないままでいた。


時間が経つと同時にどんどん体が重くなり、座っているのがやっとの状態に。


「あかり? 早退したら?」


「ううん。 大丈夫…」


夏美の言葉に答えた直後、一気に視界が反転し、気が付くと自宅のベッドの上にいた。


…喉乾いた…


ゆっくりと起き上がり、リビングに行くと、夏美がソファで缶ビールを飲んでいた。


「あ、あかり、気が付いた?」


「…なんで?」


「うわ! ひどい声してる。 熱出して会社で倒れたんだよ。 松崎君に家まで運んでもらったんだ。 いろいろあったし、一気に疲れが出たんじゃないの? 部長が、明日休んで病院行ってきなって」


黙ったままうなずいた後、水と薬をもって寝室へ。


薬を飲んだ後、ベッドに潜り込み、意識がもうろうとする中、頭に男性の声が響いてきた。


≪大丈夫?≫


『大丈夫です…』


≪無理しないでゆっくりして≫


『わかりました…』


≪病院行く時間に起こしてあげるね≫


『ありがとうございます…』


自分の声に慌てて起き上がり、周囲を見回しても誰もいない。



…今、頭の中に響く声と会話してたよね? なんで? 夢? だったのかな?…



ベッドに倒れこみ、大きく息を吐いた後、頭の中に響く声のことばかりを考えていた。



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