第24話

 裏口から入り、そのまま受付を通ってFルートの方に抜ける。

 Fルートは迷路型の第5ダンジョンの中でも比較的広い通路である他の5つのルートと違って、道幅が狭く、壁もごつごつした岩がさらされたような自然のままの姿だ。

 話を聞くとボス部屋に至るまで魔物は出現しないらしく、いかにも管理用のルートといった感じに見える。


「地下1階のボスと戦っても相手が弱すぎて何も分からないだろうし素早く通り抜けて目的の地下11階に行こうか。」


 ボス部屋の扉の前に着くと、そのまま扉を開けカケルさんの魔法によって一瞬にして主であるゴブリンが倒される。

 カケルさんが使った魔法はスキルとしても獲得することができ、手数が多くて人気の高い『ファイアアロー』だ。


 何度も見たことのある魔法だが、精度が高く、全てが命中し全く無駄がない。

 魔法の精度や調整に関してはもともとの器用さであったり集中力であったりが関係しているのだが、能力者はそれに補正がかかり、更に自分の能力に関する属性に関しては親和性が高く、より自在に操ることができるようになる。


 言葉もなく現れたポータルを設定し、カケルさんを先頭に飛び込んでいく。

 ここら辺は慣れたものなのだろう。


 しばらくの浮遊感の後、俺たちが辿り着いたのは地下11階。

 雪とマスターと3人で来た時以来のこの階層は、ゴブリンの上位互換であるオークが出現する階層だ。


「さぁ、ここからはさっき言った通りのフォーメーションを組んで動こう。いくらオーク相手とはいえミツハルさんもいないから油断だけはしないように。」


 前回はトラップに引っ掛かったため十分な探索はできていないが、オーク自体は何回も戦ったことがあり、能力覚醒前でもソロで倒せていた魔物である。

 ただ地下30階の攻略を先に見据えているため、ボス部屋を想定し魔物部屋には積極的に突っ込んでいくとのことであり、そうなるとオークの上位種が出現し、普通のオークも複数体が同時に出現する魔物部屋での戦いは楽ではないことが予想できる。


 連携を確認する他にも、強い魔物と戦っていかないといけないことを考えると、信頼関係を築くということも大切だと考えていた。


「前方にオーク2体!」


 俺が先頭を歩いているため、声を出して他のメンバーにも伝える。


 2体とも手に持っているのは木のこん棒。

 普通の個体でさえ錆びているとはいえ剣を持つゴブリンとは違い、オークはこん棒を持つ個体が多いのが特徴だが、その力の強さからまともに喰らってしまえば能力者でも吹っ飛ばされてしまうだろう。


「陽向くん、左のオークは任せたよ。」

「分かりました!」


 通路はそこまで広くないため、俺とカケルさんでそれぞれ1体ずつ担当し、他の3人はフォローに回るようだ。

 俺は指示通り、左のオークのターゲットをもらうように飛び出していく。


 同時に左右に動き始めたことで上手く2体を分断させることができたため、目の前のオークに集中だ。

 そろそろ接敵しそうというところでアイテムポーチから剣を取り出して左手に持ち、右手の前に壁を展開させる。


 醜い顔。豚のような見た目の魔物で図体はかなりでかい。

 オークはこん棒を大きく振りかぶり俺にめがけて全力で振り下ろす。


 ドンッ


 こん棒が壁に当たり鈍い音が聞こえるが、これまでと同様俺自身に衝撃は全くと言っていいほどない。

 攻撃間隔が長く速度も遅いため、大して苦労することなく攻撃を受け止めていく。


 チラッとカケルさんの方を見てみると、ゴブリンジェネラルが持っていたような巨大な大剣に炎をまとわせ戦っている。

 対峙しているオークのこん棒には火が燃え移っており、相当慌てているようだ。


 地下30階のボスに挑むのであれば、こんな所でもたついている訳にはいかない。

 俺はもったいぶることなく、反発力を受けて疲れ始めたオークの隙を見て、これまでの攻撃を吸収している壁をオークの心臓付近に軽くぶつける。

 壁の後ろに隠れるようにして動けば、相手の攻撃を受けることなく至近距離まで近付けることも、この壁の利点だ。


 オークは俺の攻撃を受けてしばらくよろめいたかと思うと、そのまま地面に倒れ消えて行く。


「うん。ゴブリンジェネラルの攻撃を防ぎ続けていたという話通り、オークの一撃を受けても全く問題なさそうだね。」


 すでに先に戦闘を終えていたカケルさんがそう感想を述べる。


「・・・ひまだった。」

「まぁそう言ってくれるな、茜。魔物部屋に行けば茜にも多くの魔物を任せることになるさ。」


 茜ちゃんは意外にも戦闘狂なのだろうか、戦いたそうにうずうずとしていた。

 素材を素早く回収して、休憩することなくまた進む。

 能力者となり体力も向上しているのだろう、息切れすることもなく、全く疲れも感じていない。


 と思ったのも束の間。

 その後も休憩を入れずに魔物と積極的に接敵し、更には魔物部屋にも突っ込んでいく。

 他のメンバーがオークを火力で圧倒して倒し、俺も作戦通り一番強い魔物のターゲットを引き受け、難なく倒して行った。


 そしてあっという間に地下15階のボス部屋前。

 あっという間とはいえ5階分を突き進んだのだ。出来るだけ最短ルートを通ってきたが、それでも時間にして3時間以上かかっている。

 接敵していない間は息を整えられるとはいえ、一回も止まらず進んできたため、さすがに疲労を感じつつあった。


「ここで一旦休もう。10分後にボスに挑む。」


 カケルさんがそう指示を出し、俺はボス部屋の扉横の壁にもたれかかるようにして座る。


「陽向くん、だいぶ疲れたみたいだね!」


 にこにこしながらダンジョンに入る前と変わらない様子のミサキさんが隣に座り話しかけてくる。


「はい、正直疲れました。いつもこんな感じなんですか?」

「本気の攻略じゃない時はそうかな。もっと下層になると慎重に動かざるを得ないんだけどね!」


 地下30階をあと少しで攻略できたというミサキさんたちにとっては、地下15階のボスなんてものは警戒すべき相手ではないのかもしれないが、実は俺自身は地下15階を妹の助けなしで探索を成功させたことがなかった。

 これから挑むボス部屋の主はオークの上位種が5体に、オークの進化系であるハイオークが1体という構成だが、能力覚醒前の俺であったら上位種1体でも倒せるか倒せないか五分五分といったところだ。


「ミサキさんもそうですけど、皆さん体力もすごいんですね。最後の方は着いて行くのがやっとという感じでしたよ。」

「そうだったの?普通に最前線で戦ってたのに!」


 ミサキさんの言う通り、迷惑をかけてはいけないと疲れを見せないように戦い続けていたわけだが、これは俺よりもはるかに体力がなさそうに見える茜ちゃんが涼しげな顔で戦っていて、とても言い出せるような雰囲気ではなかったということにもある。


「まぁ最初は無理してでも付いてくることも大事かも。今の陽向くんは能力者0歳だから、数年能力者として体力を含め鍛えてきた私たちと差があるのは当然よ。私たちが陽向くんに合わせても良いんだけどね!」


 その後もミサキさんから話を聞くが、そのどれもが俺にとっては新鮮な内容だった。

 能力に覚醒することによって身体能力面でも強化されているわけだが、当然強化されたからといって能力者全員が同じ身体能力になるわけではなく、それぞれのもともとの体力やポテンシャルも関係するし、鍛えれば向上し、鍛えなければなまるとのことだった。

 俺以外のメンバーは全員5年前に覚醒し、そこからダンジョン攻略を続けてきたということで、単純に考えて5年分の差があると考えられる。


 そんな話をしていると少し離れたところで休憩していた3人が俺とミサキさんの方に近付いてくる。


「まだ少し時間はあるけど連携の確認をしておこうと思う。これまでの戦いだとフォーメーション的には問題なさそうに思えるからこのままで行こう。一番強いハイオークは陽向くんが担当。その他は相手の動きに応じて各自対応する。正直陽向くんの能力は予想以上だったよ。期待しているからハイオークは頼んだよ?」

「分かりました。」


 炎をまとわせた大剣で向かう敵を問答無用で叩ききって行くカケルさん。空中を飛び回って魔物の背後を取り次々と魔物を倒すミサキさん。音も気配もなく気付いたときには倒されているという魔物にとっては幸せなのかもしれないとまで思わせる凄まじい動きを見せるヒカリさん。細かい鋭利なガラスのような水晶を雨のように降らせ容赦なく魔物を倒して行く茜ちゃん。


 これまでの戦いを見るに、これから挑む地下15階のボス部屋も4人ですぐに戦いを終わらすことができるのは間違いないのだが、これはテスト的側面もあるのではないかと俺は思い始めていた。


 ハイオークは21階から30階まで出現するオーガと同等の強さとも言われる。

 能力者でもないと一人で戦うなんてことは有り得ないのだが、今回は俺がソロ状態でハイオークとやり合うのだ。


 この前オーガを見かけたときは到底敵う気がしなかった。

 気持ち的にも余裕をもって30階の攻略に挑むためには、ハイオークごときで苦戦はしていられない。




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