第23話
「よし。じゃあまずは自己紹介からしようか。まずはヒカリさんか」
「もう終わったわ。」
カケルさんの言葉にかぶせるようにして不機嫌な声でそういうミサキさん。
「な、なるほど。じ、じゃあお互いの能力紹介をしようか。まずは僕か」
「それも終わった。」
「そ、そうか。」
今度はヒカリさんがカケルさんの言葉にかぶせ、カケルさんはようやく状況を理解したのだろう、額に汗が浮かび始めているのが見える。
というのも時刻はすでに15時過ぎ。
4人が集まってから3時間ほどが経過していて、正直俺も含めた全員が待ちくたびれていた。
もちろんその間に自己紹介や能力紹介は済ませ、それだけでなく色々な個人的な話などもして、この3人とは最初と比べるとかなり仲良くなれた気がしている。
「カケル、言い訳は?」
「い、いや目覚ましをかけ忘れてしまってね。」
「・・・その言い訳は15回目。カケルお兄ちゃんは大っ嫌い。」
茜ちゃんの辛辣な言葉にショックを受けているカケルさん。
助けが欲しそうに、俺の方に視線を向けてくる。
(ごめんなさい、カケルさん。)
3人から話を聞いていなければ擁護をしていたのかもしれないが、カケルさんは毎度の寝坊で遅刻しないことの方が珍しいらしく、それに対しては3人とも不満がたまっているようで、3時間の会話の中で一番盛り上がったのがカケルさんの寝坊に対する不満だったほどだ。
俺が擁護をすれば、俺まで袋叩きにあってしまうことは目に見えていた。
「コホン、では改めて。これから第5ダンジョンの攻略に向かうが今回は陽向くんとの初戦闘になる。ミツハルさんもいないから地下11階から様子を見つつ進んで行こう。目標は地下15階のボス。疑問や思うことがあったらすぐにでも伝達するように。」
5分後。しばらく3人から不満をぶつけられた後、仕切り直しとばかりにわざとらしく咳をしてから、カケルさんが出発の号令をかける。
能力によって罠やトラップ、敵の位置を察知することができるというマスターは、新しい階層の攻略をする際には欠かせない存在ではあるが、今はカフェタイム前の本業の方で忙しい。
もはやどれが本業なのか今の俺には分かっていないのだが。
「陽向くん、何か質問はあるかい?」
「これまでのフォーメーションについては聞きましたが、今日のフォーメーションはカケルさんが来てから決めることになっていました。俺はどうすればいいですか?」
「なるほど。それも含めて今日決めたいところだけど、とりあえず暫定的に決めないといけないね。そうだな。それについては歩きながら決めていこう。」
カケルさんの言葉を合図にして全員ソファーから立ち上がり、道の向かい側にある第5ダンジョンへと向かい歩き出す。
ここで、先ほど聞いた4人の能力について簡単にではあるが紹介しようと思う。
まずはリーダーのカケルさん。
能力は火属性魔法だがメイン武器は大剣であり、それに炎をまとわせて戦うことが多いらしい。もちろん遠距離もこなすことのできる万能タイプではあるが、基本は攻撃に特化し、防御を無視して戦うことが多いため最前衛を務める。
次にミサキさん。
能力は飛行魔法と呼ばれるもので、その名の通り自由自在に飛び回ることができる。ただ効果としてはそれだけであるため、能力者として上がっている基礎能力を駆使して槍を使い、空中を動き回りながら攻撃するスタイルのようだ。
上から見下ろすことで全体を把握することができるため、パーティーへの指示出しは基本ミサキさんが行うとのこと。
そして茜ちゃん。
茜ちゃんの能力は魔力水晶という、世界で唯一茜ちゃんだけが使えるというもので、体内の魔力を結晶化させ水晶に変換し、細かく変換して雨のように降らし攻撃したり、鉄よりも固い特質を生かして防御に使ったりと非常に有用なものである。しかしその分魔力消費が大きく、限界を超えてしまうと今のような姿になってしまう危険性があり、慎重に使わなければならないとのことだ。
常に最後衛で戦い、魔物によるターゲットの分散や味方のフォローまで行う。
最後にヒカリさん。
気配遮断を行うことのできるヒカリさんの能力は『アサシン』というもので、気配遮断、移動スピード上昇以外にも忍者の使う煙幕や一撃必殺のような固有魔法もいくつかあり、学生時代から気配が薄かったからこの能力を得られた、というのは本人談だ。
パーティーにおいては遊撃ポジションを務めるが、火力が高い攻撃を持っているため、フィニッシャーを務めることも多いらしい。
ここまで説明して理解してもらえたと思うのだが、このパーティーはバランスが悪い。
攻撃だけでなく、防御、回復、バフ、デバフなど非常に多岐に渡って存在する魔法や能力ではあるが、茜ちゃんを除く3人が攻撃に特化し、茜ちゃんに関しても決して防御役とは言えない、どっちつかずのタイプだ。
今はここにいないマスターも探索時は斥候を務めるが、戦闘の際は剣を使って戦うアタッカータイプのため、今までこのパーティーにはタンクなどの基本的には防御に徹する役割のメンバーが居なかった。
ただでさえ能力者の数が足りていない現状で、フリーの能力者が役割ごとに都合よく集まるなどという話はないのだ。
「これは聞いていなかったんですけど、それぞれ獲得しているスキルはどんな感じなんですか?」
「スキルについては全員が自身の能力を高めたり弱点を埋めたりできるようなものを獲得しているよ。常にパーティーとして動くわけではないからそのためだけにスキルを獲得するということはしないのが普通なんだ。」
なるほど。確かに器用貧乏タイプよりはその方が活躍の場は増えそうである。
「陽向くんの能力は攻撃もできる防御系、だよね。」
「そうですね。能力検査の時に妹の魔法で試しましたが、どんなに強い攻撃でも俺の壁は防いでくれます。ただ現状では範囲攻撃に弱いですし、遠距離攻撃を用いる魔物複数相手だとかなり苦戦を強いられると思いますけど。」
「それは僕らも同じだよ。一気に殲滅でもしない限り遠距離攻撃というのは非常に厄介なものさ。雪さんの戦いを身近で見てきたからそれが普通になっているんだと思うけど、雪さんの使う魔法は能力者の中でも飛びぬけて強いものだ。あんな風に殲滅することは難しいから一体ずつ倒して行くというのが僕たちの戦い方。」
俺の発して心配の言葉に、問題ないよと笑って答えるリーダーのカケルさん。
確かにこの目で直接見てきた能力者の戦いというものは、全てが雪の戦闘であるため、それが自分のスタンダードとなっていることは間違いなかった。
「そうだな。とりあえず陽向くんには向かってくる敵の魔物の中で一番強いと思われる魔物を引き付けてもらい、あわよくば倒すという役割をしてもらうことにしよう。その間に僕を含めた他のメンバーで遠距離の攻撃手段を持つ魔物を倒して回り、そして陽向くんに寄ってくる他の魔物を倒してフォローする。これでどうかな?」
「分かりました。それでやってみます。」
カケルさんの考えた作戦・フォーメーションを聞いて感心する俺。
どんなに攻撃力の高い魔物でも単体であれば相手をすることに自信のある俺と、攻撃手段は豊富ながら防御手段に乏しいため、なるべく一撃の重い相手とは直接やり合いたくない他のメンバー。
まさに適材適所に思える作戦だ。
「あれ?どこに行くんですか?」
そんな話をしているとカケルさん達が何の違和感もなく第5ダンジョン横の細い道に入って行こうとするのを見てとっさに声をかける。
俺がいつも通っている建物の入り口とは違う方向だ。
「あぁ、陽向くんにはこれも伝えておかないといけなかったか。『ファイブスターズ』のメンバーはここに通っている人にそれなりに知られているから、騒ぎを起こさないためにも裏口からダンジョンに入ることを許されているんだ。いわゆる職員用通路ってやつかな。」
「ダンジョンの入り口は他にもあるんですか?」
「そういうことになるね。ついでに言えば入り口から続く5つのルート以外にも受付内部からボス部屋までつながった通称『Fルート』があって、そこも使っていいことになっているんだ。他の5つのルートが混んでいる時間帯でも人が全くいないから便利だよ。」
組織に加入したことで、これからは俺もその入り口や通路を自由に利用しても良いらしい。
通常は運営側が利用し、緊急時には普通の攻略者も使うことができるのだというが、これで俺も第5ダンジョンの間引き作業を行うものとして運営側の人間になったということだ。
しかし、個人的なダンジョンへの謎は深まるばかり。
カケルさんや他のメンバーはそのことに何の違和感も覚えていないようだが、科学では説明できない存在であるダンジョンに管理運営用とも思えるものが自然に存在しているとなると、この未来を想像し得たものの意思が感じられるような気がして薄気味悪い。
世界中に存在し、魔物氾濫の際には少なくない死者を出す原因ともなったダンジョンではあるが、単に地中から浮き出てきたわけではなく、誰かが、何かしらが、何か意図があって発生させたことが今では確信できる。
「さぁここが裏口だよ。」
カケルさんを先頭に次々と入っていく『ファイブスターズ』のメンバーたち。
考える暇もなく、戦闘開始の時はもうそこまで近付いていた。
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