白魔女編

いちわめ


 この物語の主人公は1人の少女。大国の王女として生まれた彼女は、他の者と少し変わっていた。物心着くより前から落ち着きがあり、礼儀があり、品性があり、年齢に合わぬ知性があった。幼齢の頃から書物を漁り、あらゆる知識を飲み込んでいく。


 人は彼女を天才と呼んだ。国の未来を担う1人として、彼女は多くの者から期待された。


 そんな天才の名が落ちるのは齢五の時。


 人には理外の技を行使出来る"魔法"という才能がある。それは属性に分けられ、適正色として身に宿している。それを通例5歳の時に調べるのだ。


 この国では王族に必須な適正色があった。その色は"黄"。対応する属性は光である。国を照らす象徴として、王族には光属性の魔法が使えなくてはならなかった。代々受け継がれてきた伝統であり、掟に近いものである。



 王女は"黄"の適正色を持っていなかった。



 その日より彼女は王族の恥晒しとなった。どれほど優れた知能を持っていようとも、魔法という才能が無ければ意味が無い。この国ではその思考が特段に強かった。


 様々な束縛を受ける日々が始まり、陰湿なイジメを受ける毎日が始まった。最低限の質素な食事。兄弟達からは愚か、他の貴族やメイドからも嘲りのある目で見られる。


 天才と謳われた王女もたった5歳の少女。そこにある、大人びた思考能力も日々の生活によって弱り果てた。


 そんなある日、少女は国王に呼ばれた。重い足取りで王の間へ向かう。付いてきてくれる者は1人も居らず、自らの足で断頭台へと赴く気分だった。



 そして処分が言い渡された。



 処刑はされない。ただ、普通に生かしてもくれないようだった。とある町の一角に在る古びた屋敷。そこに押し込まれることとなった。


『屋敷から出るな』


 その言葉が少女の頭に強く残っている。


 その屋敷での生活は良いものとは到底呼べなかったが、最悪というものでもなかった。最低限の食事は摂れる。嫌そうな顔をするメイドも3人居る。憂さ晴らしのようにされていたイジメは減った。それが少女にとっては嬉しかった。


 それから数ヶ月が経過。軟禁され、メイド達が脱走し、少女は嘆いた。


 本当に孤独となった事で、少女の生存欲求は大いに高まった。やらなきゃ生きられない。その思いが強く芽生えた。



 人生の転機。



 身を削る程の激痛と、怠さ、吐き気、目眩といった身体的な代価を支払い、少女は魔力を得た。


 身を捩る程の寂寥感、無力感、孤独感、使命感といった精神的な代価を支払い、少女は錬金術を得た。



 そして8年という月日が過ぎた。少女は13となった。



 外見に変化は見られず、中身は寧ろ退化していた。長い軟禁生活により彼女の思考能力は著しく低下。回してこなかった舌は衰え、発言が幼さ丸出しのそれとなった。


 そんなある日、彼女の運命を大きく変える出来事があった。詳細は省こう。




 屋敷が燃えたのである。




 正確に言えば燃やされた。しかし、少女にとってはどちらでも同じことだった。


 屋敷が燃えた。


 屋敷が崩壊した。


 屋敷が無くなった。


 少女を縛り付けていた鎖が、枷が、檻が壊れる。


 狂喜的な笑みを浮かべた鳥は空へと羽ばたいた。何時の日かと夢見ていた空へと、鳥はその羽で飛び出した。


 その白い鳥は何処までも羽ばたくだろう。どこまでもどこまでも昇り続ける。



 届くはずもない天に届くまで。

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