ごーわめ


「んむ、よく寝た......。お腹空いたな」


 彼女が目を覚ましたとき、既に昼を超えていた。そう、体内時計が示していた。因みに彼女の体内時計はあまりアテにならない。


 体調を確認する。寝る前に感じていた疲労は失せていた。どうやら体内の魔力は完全に回復しているようだ。少し寝すぎたかもと反省しながら、次にお昼ご飯について考え始めた。


 そして辞めた。今の食糧から考慮して、1日に2回しか食事は取れないだろう。朝食を取ってしまったので、もう少し遅い時間に食べないと夜まで持たないと考えたようだ。日本人としての感覚的に、本当は3食食べたいところだが......そこは仕方ないと諦めた。


 さて、と彼女は一息吐いた。きゅうきゅうとなるお腹は無理矢理に抑え込む。コップを用意してそこに《水生成》で作り出した水を注ぎ、飲み干すことで誤魔化したようだ。


「ぷはーっ」


 濡れた口元を服で拭い、顎に手を添えて考える。


(魔力も回復した事だし、魔法の検証を再開しよ。火と水は確認済みだから、次は風かな?色で言うなら赤と青、そして緑となる。魔法の色が光の色と同じなら、私には緑色にも適性がある、と思う)


 彼女はさっそく基礎魔法のイロハが載っている本を手に取った。ペラペラとページを捲り、風系統の魔法ページで手を止める。風魔法に関しても、基礎の基礎なら発動は簡単だ。詠唱文句も前2つとさして変わらない。


「私が命ずる 魔素を糧に この手に風を──《風生成》」


 基本的な呪文を唱え、両手を前に出して魔力を感じ取る。ぐんと抜けた魔力は手のひらに集中し、そして形となった。


 ビュウッと、数秒間程うちわで扇いだような風が起こる。その風は彼女の長く美しい銀髪を巻き上げた。


「にへっ、にへへっ......やたっ」


 思わずガッツボーズをしてしまう。口元も緩んで抑えられない。


 これで殆ど確定した。「白」の魔法は「赤」「青」「緑」の魔法を再現出来る。まだ基礎魔法しか試していないから断定とはいかないが、魔導書に依れば適正を持たなければ基礎魔法すら発動できないのだとか。裏を返せば発動出来る少女には適正がある、という事だ。


 それを認識して、また少女は口角を緩ませる。

 

 くらり、と少女はよろめき床に両手を着いた。どうやら魔力量が少なくなってしまったようだ。確かに、起きてから魔法を二度使用している。少女の魔力量ではこれが限界なのだろう。


 しかし体を襲う倦怠感さえ、今は心地よい。興奮した気持ちを和らげるのに丁度良かった。倦怠感が無ければ駆け出して騒ぎ立てていただろうから。動けない事が幸をそうした。


 それから震える手を見つめて考える。適正に関しては申し分ない結果となったが、魔力量に関しては非常に悲しい。最弱の魔法2発でこれとなると、彼女の望む攻撃魔法なぞ1発も撃てない可能性すらある。それは困るな、と少女はボヤく。


 そしてふと、ある事を思い付いた。限界を超えて魔法を使ったらどうなってしまうのか。もしかしたらリミッター解除的な事が起こり、魔力量が爆増するのではないか。そう、彼女は突拍子も無いことを思い付いてしまったのだ。


 思いついてからの行動は早かった。怠けが襲う肉体を動かし、台所から鍋を掴んで運んでくる。


 居間へと鍋を運び込み床に置いた。自身はベッドの上に座る。これで気絶しても体を打つことは無いだろう。


「── ── この手に水を 《水生成》」


 体内に残る魔力を振り絞り、右手に収縮させて魔法を発動させた。


 ありったけの魔力を消費して水球は作られ、そして用意しておいた鍋に落ちる。


 ちゃぽんっと落ちた水球を見て、よしよし魔法は発動出来た、そう喜んでいた少女だが、途端にクラクラと脳が揺れ動き、景色がぐにゃりと歪み始める。


 あ、やばい。少女はそう考えたが、既に手遅れであった。


「きゅぅ──」


 そして間もなく少女は気絶し、ベッドに仰向けで倒れ込んだ。


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