ろーくわめ
次に少女が目を覚ました時、外は暗闇に染っていた。どうやらあれから随分と時間が経ち、日も沈み夜になってしまっていたようだ。
体を動かすと頭に針を刺されたような痛みが走った。その痛みに思わず目を瞑ってしまう。それでも手で頭を押さえて無理やり体を起こした。
「なるほど......危険だな......」
限界を超えた魔法の行使。出来なくはないがかなり危険なものだと理解した。あの瞬間、死ぬかもしれないと少女は思っていた。それ程リスクのある行為だったのだろう。
何度か深呼吸をして動悸を落ち着ける。それから内在する魔力量が満タンになっている事を把握した。
ふぅ、と一息吐いて、ズキズキと痛む頭を手で抑えながらゆっくりとベッドから立ち上がる。しかし上手く立てない。ガクガクと足が震えているのだ。耐え切れずボフンとベッドに倒れる。
「はぁ......体中の魔力を掻き集めたから、肉体の動作が悪くなった、という事なのかな」
まるで自分のものではなくなったように、言う事を聞いてくれない手足に溜息を吐いてから、天井を見つめる少女は呟いた。
再度ベッドに倒れてから、動く気力は無くなった。ぼやーっと天井のシミを数えて時間を潰す。
「......お腹も空かないな」
気絶する前は騒いでいた腹の虫も、今は息を潜めてしまっている。お腹を摩ってみるも、やはり空腹感が消えてしまっていた。
喉も乾いていない。
魔導書を読もうにも体を動かしたくない。
そして他に、やることも無い。
無為な時間が過ぎてゆく。
少女は天井に向けて手を伸ばした。
「この手に、風を」
何も反応がない。それは当然だ。詠唱をキチンと成立させていないのだから、魔法が発動する筈が無かった。
ちぇっ、と小さく舌打ちをしてから、もう一度息を吸って呪文を唱え始める。
「── ── この手に風を 《風生成》」
今度は正式な詠唱を口にした。すると当然、掲げた右手から風が発生し、ビュウと空気中のホコリを舞い上がらせた。
「ふぅ......なるほど」
一息吐いて、呼吸を整える。魔法発動に関しては問題無い。体中を駆け巡る激痛にさえ気を向けなければ、限界超過後の魔法起動も可能だと理解した。
右手を閉じたり開いたりを繰り返して腕の調子を確かめる。そして、再度呼吸を整えた。
「── ── この手に風を《風生成》」
ビュウッと一筋の風が天井目掛けて吹き上がる。
これで2回目。
気絶前はこの時点で次は撃てないという自覚があった。しかし今はどうだろう。あと一発撃てるという自信がある。
「── ── この手に、風を 《風生成》」
全身から力が抜け落ちる。そして彼女の望み通りに風が巻き上がった。
「うっ、ぐっ!?あぁぁぁっ!!?」
発動した次の瞬間、少女の体に激痛と倦怠感が襲って来ていた。頭痛、吐き気がする。息が荒くなり、視界がぐにゃりと歪んでくる。奥歯をグッと噛み締めて抑えようとするも、呻き声は漏れ出てしまう。気絶はしなかったが、気絶した方がマシな苦しみがあった。
暫くベッドの上で苦痛に悶え続けると、思考できる程度には回復した。
少女は現状理解に務めた。まず間違いなく魔力量が増えている。あくまで少女の体感だが、以前は10だった魔力量が今は12になっていた。基礎魔法では一度に4の魔力を使うので、ギリギリ3発を使うことが出来た、という事だ。魔力が底を突くと先程のような苦悶を味わうのだとしたら納得だ。
限界越えの魔力を消費すれば、その分魔力が増えるのではないか、というのが少女の予想だ。3発目を無理矢理撃って気絶した後、3発は撃てるようになっていた。
すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、と深呼吸を数回行い、自身を鼓舞する。何せ、限界を超えた魔法を使った時、死という単語が脳を過ったのだ。もう一度同じ目に遭うのかと考えると、肉体が行動を阻害してしまう。
また限界を超えた魔法を使えばどうなるのか。想像しただけでも恐ろしい。
それでも、少女はもう一度地獄を見る選択をした。
自身の使う魔法だけが彼女の味方であった。彼女には魔法しか頼るものがない。そこに唯一の希望を見いだしていたのだ。
魔力量が増える。それは目の前に吊るされた人参だった。
「私が、命ずる! 魔素を糧に! この手に、風を! 《風生成》っ!」
肉体の奥の底から魔力が溢れ出て、少女が望んだ現象を引き起こす。一筋の風が下から上へと巻き起こった。
「うぁぁぁっ!!ぐぁぁぁっ!?」
頭に釘を打ち付けられたかのような痛み、空っぽである筈の胃からものが逆流するような吐き気、ぐわんぐんと頭が揺れる。来るとわかって居ても耐えられない。拷問のような激痛は幼い少女の肉体を容赦なく蝕んだ。
視界がぐにゃんぐにゃんと歪んでいき、肉体が闇の中に沈んでいく感覚に襲われる。
そして少女は気絶した。
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