じゅーろーくわめ


 少女が錬金術師になった日から一月が経った。あの日から少女の日常は変化する事になる。


 太陽が昇る頃に起床。1つ伸びをしてベッドから降り、洗面台(大きめの鍋)で顔を洗う。そして風を作り、眠気と共に水気を吹き飛ばす。


 朝食は変質させて甘味を付けた水と栄養キューブ1粒。ぽいっと口に入れて食んで飲み込み、甘い水を喉に流してお終いだ。


 それから自室に運んだ錬金釜で遊ぶ。基本的に水と魔力だけでなんでも作れるが、他の素材を用いることで時間と魔力を削減出来ることに気が付いた。その為、色々な素材をぶち込んで掻き回し、新しい物を作り出す事に没頭している。


 それが飽きたら魔法の練習。錬金術にも魔力はかなり必要なので、まだまだ魔力増幅は必要だ。それに加え、少女は絶望的なまでに非力。護衛手段は魔法しかない。それ故にこの修行は怠れない。


 そして昼になり、栄養キューブを1粒口に放り込んで飲み込み、昼飯を終える。


 それから水を変質させて擬似的なお茶を作ると、それを啜りながら読書に耽ける。読むのは錬金術に関するあの本ではなく、他の雑多な知識を得るための本達だ。


 読書に疲れれば目を瞑り眠る。寝た方が魔力回復は早いので寝る事も大切だ。


 夕暮れ時に目を覚まし、読書時間中に思い付いた錬金や魔法の試行に当たる。


 そしてそれから夕食に栄養キューブを1粒食して終えると、魔力を限界まで使って気持ちよく寝るのだ。


「......ててーん......マジックバッグ〜〜」


 そして今日作り出したのは1つのバッグ。屋敷内にあったボロボロのバッグを元にして錬金術で以て変質させた特別製。なんと容量が見た目通りではない。その容量は数十倍、いや数千倍以上だ。


 試しにそこら辺に転がっている失敗作を突っ込んでみた。ポイポイポイポイと入るわ入る。持ち上げてみても質量は感じられない。少女が望んだマジックバッグは成功だった。


「んーっ......次は何を作ろうか......」


 少女は錬金生活を満喫していた。




 ※ ※ ※




 同日、バライア伯爵邸にて。


「旦那様。例の王女の件ですが......」


 燕尾服を身に纏う男が椅子に座るでっぷりと太った男に報告をする。それを聞いた男──バライア・ブルッデ伯爵はニヤリと笑った。


「ふん、あの無能姫め......ついにくたばったか」

「はい。扉の外に前回の配達分が放置されていたようです」


 続く報告を聞いたバライア伯爵は訝しげな表情になる。執事の言葉では王女の死が確実とは言えない。


「死体は確認したのか?」

「いえ......どうやら扉が錆びてしまったのか、開かなかったらしいのです。王家所有宅なので壊して開けるという事も出来ず、確認は出来ませんでした」


 執事の言う事は正しい。強引にこじ開けてしまえば器物破損として請求されかねない。王家から見放された王女の死の確認をする事に、それ程のリスクを背負う価値は無かった。


 バライア伯爵は暫く考え、そして1つ決断を降す。


「そうか......どうせ食料が無ければ生きてはいけまい。死んだと断定して良いわ」

「はっ」


 これからはもう食糧の配達も無くしていい、と命じる。それを聞いた執事はお辞儀をした後、部屋を出ていった。


 バライア伯爵は気分良くグラスに入った年代物のワインを飲み干すと、ふぅと息を吐く。


「国王から渡された口止め料は美味かったな」


 グヒヒヒと笑いながら思い返す。


 『黄』の適正色を持たずに生まれた王女。それは王家にとってこれ以上にない恥。世に知れ渡る前に消す必要があった。


 他の貴族に知られれば王族の立場も揺らぎかねない。少なくとも王妃の名誉は落ちてしまうだろう。それを防ぐ為に、バライア伯爵の領地にある屋敷に軟禁した。その際に王女の説明と口止め料を貰っていた。


 その金で最近は贅沢三昧な日々を過ごしている。


「不幸な王女だ......私にとっては幸福だったがね」


 そう呟くと、ゲラゲラと笑い始めた。

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