じゅっよっんわめ
ハクの屋敷から出たレオガイアは人目を避けるように移動した。ハクが住んでいる屋敷は貴族の物で、誰も住まない寄り付かない場所として知られている。そんな屋敷を出入りするのを見られればハクに迷惑がかかるかもしれない、と考慮した為である。
気配を消したまま移動して、屋敷から離れた場所で隠密を解除。それから普通に歩き始めた。夕日に照らされ茜色に染まった街を歩く。
古びた建物が建ち並ぶ街道を眺める。
領主の管理が悪く、治安は良いとは言えない街だが、冒険者にとっては住みやすい街であった。と言うのも、この付近の森には魔物が多く発生する為、獲物には困らないのだ。
危険な森があるせいか、ここで暮らす者の殆どは冒険者だ。その冒険者を狙った宿屋や食事処、鍛冶屋や商店が散見される。
最低限の衣食住が整っている町。永住こそ選ばないが、金稼ぎの場としては有能だった。
レオガイアはそんな街を拠点にする冒険者の1人だ。
ただ、最近問題が起きてしまった。この街を拠点にすることは好ましくなかった。レオガイアの頭には他の街への移動が過ぎっていた。
「レオ〜〜!」
後方から名を呼ぶ声が聞こえた。その声主に心当たりがあり、レオガイアは表情を暗くする。
振り向き正体を確認すると、ため息を吐いた。
手を振りながら駆けて来たのは金色の髪を二本結びにした女性。派手な装飾が施された胸元を晒すような服を纏い、長い杖を得物とする魔術師。名をローゼンティという冒険者だった。
「レオぉ、昨日はごめんねぇ......私ぃ、動転してたのぉ」
目を潤ませ、猫撫で声でそう吐いた。
このローゼンティこそ、レオガイアのパーティメンバーであり、レオガイアを死の淵に追いやった犯人。レオガイアの腹部に刃を突き立てた張本人である。
「でもぉ、レオが無事で良かったぁ」
傷付いていた腹部が治っている事に気付き、ローゼンティは嬉しそうにする。
(無事?)
ローゼンティの発言はあまりに自分勝手であった。少なくとも無事で済んだ訳が無いと理解しているのに、快復した現状だけを見つめた発言だ。
触れようと近寄ったローゼンティから距離を取る。
「そっか、では済まされないよね」
「ごめんなさい......でもぉ、あれは本心じゃないのよぉ」
あくまで刺したのは一時の誤りとでも言いたいようだ。つまり、謝罪も表面上だけの言葉なのだろう。反省皆無な許しを乞うだけの言葉なのだ。
(執拗に、何度も何度も刺しておいて、殺すつもりで刺しておいて何を言うんだ)
間違いなく致命傷を与えられていた。
刺された理由は分からない。何を思い、考え、その行動に至ったのか。知らないし知りたくもなかった。
「もう、パーティを組むことは出来ないかな」
「そんなこと言わないでぇ!ごめんなさい、私が悪かったのぉ!私達ならまたやり直せるわぁ!」
(突き放すと叫ぶ。何時もそうだ。こうやって離れようとしない)
パーティを組もうと誘われた時、特に断わる理由も無かった為に承諾してしまった。お互いにソロであったし、誰かと組もうと考えていたレオガイアにとっても利はあった。
それから2年近く経過するが、パーティメンバーは一向に増えない。レオガイアとローゼンティという2人だけのパーティが続いていた。
気が合う訳でもない、コンビネーションが良い訳でもない。ただ、離れようとしてもくっ付いてくる。先回りして他者を排除し、2人だけの時間にしてくるのだ。
レオガイアの性格もその要因になっていたのかもしれない。相手に強い姿勢を取れないため、ローゼンティが喚くような訴えに折れてしまっていた。
好きでもない女性と2人きりで過ごすのは苦痛だった。束縛するように付き纏うローゼンティに辟易していた。何時か縁を切ろうと考えていたのだ。
「衛兵には突き出さないから、これ以上僕に付き纏うのは辞めてくれないかな」
今回の件で踏ん切りが着いた。このままローゼンティと行動していれば何時か殺されるだろう。そうなる前に、
「怒ってるの?謝るわ......ね、仲直りしましょ?」
それでも縋るように、何処までも自分勝手に寄りを戻そうとする。この女の思考回路を理解出来なかった。
「怒らない訳が無いじゃないか。誰だって、自分を刺した相手とこれからも仲良く、なんて出来ないよ」
そう言い切り、ローゼンティに背を向け元の進行方向に歩き出した。
「私無しで冒険者をやっていけないでしょお!?」
歩き去るレオガイアの背中にローゼンティが叫んだ。
事実レオガイアはこの街で孤立した存在だった。まともに会話を出来る相手が1人とて居なかった。
その元凶はローゼンティにある。彼女はレオガイアと2人きりの時間を作る為に、周囲をレオガイアから遠ざけたのだ。それは正当な手段と言うよりも、悪質な手段の方が多い。
そして今、周囲の人間にとって2人は近寄り難い存在になった。
この街でレオガイアと組んで、共に闘ってくれる者は居ないだろう。ローゼンティが言いたいのはそういう事だった。
「忠告ありがとう。けど、僕の事は気にしないでくれ」
そう言い捨て、レオガイアは陽が落ちた街へと消えて行った。
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