じゅっごっっわめ

翌朝。


 朝日が昇る頃、レオガイアは何時もと違う宿屋で目を覚ました。ローゼンティの件があり他の宿屋を利用したのだ。


 簡単な朝食を摂り、武器などの道具を確認する。レオガイアの装備は短剣と弓矢。気配を殺して接近し、一撃で殺す。もしくは遠方から狙撃のどちらかである。


 確認を終えると宿を出て、街を出る。誰にも声をかけられることもなく、誰にも声を掛けることも無く。レオガイアは1人静かに街を出た。


 冒険者が屯する森ではなく、レオガイアは平原に向かった。森にはモンスターが多く存在するが、冒険者の数も多い。問題を起こしやすい彼は人の少ない平原を選ぶのだ。


 平原に出て、周囲を観察して索敵する。そして少し離れたところにスライムを発見した。


「これは、どうしよう」


 ハクが求めているのは魔物の臓物。と言うよりも血肉だろう。だとすると、スライムは必要ないかもしれない。


 ぷよぷよと跳ねるスライムを見下ろし、倒すのも面倒だしなとレオガイアは見逃した。


 それから平原を歩き続け、角を持つ兎型の魔物を3匹、毒を吐く蛇型の魔物を一匹、大きめの鳥型の魔物を2羽狩猟した。それら全てをマジックバッグに放り込み、軽々と運ぶ。


「うーん、やっぱり便利だよね」


 こんな優れた物を出会って2日の男に渡すなんて、ハクはやはり不用心だ。いや、ただの非常識なのかもしれない。


 そんなことを考えながら歩いて行くと、出てきた街とは別の街に到着した。


 ここに来た目的は、勿論ハクへのお土産のためだ。ケーキ屋まで辿り着くと、ショーケースの前に立って何を買おうかと悩み始める。


「あ、こんにちは。また来てくれたのですか?」


 昨日レオガイアを接客した女性の店員だ。


「こんにちは。知人が随分と気に入ってくれて。何かオススメはあるかな?」

「えぇっと、このフルーツタルトは如何でしょうか?採れたての果物をふんだんに使っていますよ」


 と、勧められたフルーツタルトを見てみる。色とりどりの果実が乗せられた美味しそうなタルトだ。


 これならハクも気に入りそうか、とレオガイアは頬を緩ませた。


「じゃあ、それを2つ」

「はい。分かりました......ところで、失礼を承知で聞きますが、彼女さんへのお土産ですか?」

「ん?いや、彼女では無いよ。知人の子供にね」

「そ、そうなのですね!」


 首を傾げながらも、レオガイアは店員の質問に答えた。1つ間違いがあるとすれば、知人の子供、では無く知人である子供、という事ぐらいか。


 それを聞いた店員は妙に嬉しそうに笑った。そんな反応にレオガイアは再度首を傾げるも、特段気にせず会計を済ませた。


「あの、良ければ名前を聞いてもよろしいですか......?あ、私はリーンと言います!」

「僕はレオガイア。レオって呼ばれることが多いかな」

「ありがとうございます、レオさん!はい、フルーツタルト2つになります!」

「ふふ、ありがとう、リーンさん」


 店員──リーンからケーキの入った紙箱を受け取る。紙箱を渡したリーンの頬は少し赤らんでいるように見えた。


「ま、また来てくださいね!」

「うん。また来るよ」


 リーンの言葉に、レオガイアは笑顔で返した。また来る、と言われてリーンも嬉しそうに笑顔を返す。



 因みに、レオガイアの意識はケーキの種類を暗記することに費やされていた。勿論ハクにどれを食べたいか聞くためである。

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