白魔女は今日も錬金釜を掻き回す〜恥晒しと言われて軟禁された王女は錬金術士になるようです〜

めぇりぃう

ぷろろーぐ

 突然ですが、皆さんは「転生」というものをご存知でしょうか。現世で亡くなった人の魂が、また現世にて新たな生を持つこと。つまりは肉体的に死んだとしても、その内にある精神は死なず、他の肉体を持って再生する。消えては生まれ、生まれては消え。それが輪廻転生と言われている、と記憶しています。宗教的な思考、概念の類だと生前は思っていました。



 さて、何故私がこのような話から語り出したかと言いますと、えぇ、私がその「転生」を果たし、前世の記憶を持っているからです。本来なら「転生」の際に、魂の浄化などで記憶が一掃されるものだと思いますが、どうやら私はその例に漏れたのでしょうか。ハッキリとは覚えてはいませんが、確実に前世があったことを記憶しています。それはもう不思議なもので、ぼんやりと生まれるよりも前の記憶があるという感覚は、誰かに話しても伝わらないでしょうね。前世の記憶としては、名前や家族構成、友人などといったことは忘れてしまっています。そう、本当に、ぼんやりとした、上澄みのような記憶だけがポツポツと残っているのです。



 前世では、そうですね、よく居るオタクなJKだったと思います。ぼんやりとしか覚えていないので、だったと思う、としか言えませんけどね。ですが、私の現状転生というものをすんなりと受け入れることが出来た要因は、前世の知識──つまりはオタク知識だと断言できます。私がオタクではなかったら、この「転生」を理解するためにかなりの時間を要していたことでしょう。齢2歳で自覚し、3歳となるまでには現状把握を済ませられましたよ。時間ロス、ダメ 絶対。



 さてさて、私が転生を果たした世界というものは、えぇ、地球ではありません。科学無き魔法溢れるファンタジー。この定番のような世界こそが、私の生まれ落ちた──今世で過ごす世界となります。それを知覚したのも3歳の時ですね。魔法を当たり前のように使う様を見て察しました。



 ここは電気の代わりに魔力があるような世界ですから、光や火、その他の生活に必要となってくるものは、殆どを魔法で補うことが出来ています。そのため、科学的な発展は停滞しているんじゃないでしょうか。まぁ、あまり不便を感じることはありませんでしたけどね。トイレは水洗式ですし、お風呂だって沸かせますから。日本人にとって、ここら辺は重要ですよね。気持ち的に。



 まぁ、魔法と聞いて、普段の私ならば酷く興奮したものでしょう。それはもう人目を気にせず腹踊りを披露するくらいには。私がこの世界で"魔法"に初めて触れた出来事は、暖炉の着火でしたね。本当は、トイレとかでも触れてはいたのですが、その日まで魔法だとは気づいていなかったものですから。その着火の事ですが、面白いことにチャッ〇マンが如く、人差し指からポフッと紅く小さな炎が上がり、それにより暖炉に火を灯していました。そりゃ、凄いと思いましたね。手品かと思いましたから。


 それでですね。やはりオタク。魔法、使ってみたいじゃないですか。それも、こういう日用系魔法だけでなく、ド派手な攻撃魔法を。



 魔法の存在を知った日から、私は日々のイメージトレーニングを怠ったことはありません。魔法使いの登場する物語も片っ端から読みました。どのような魔法が存在するのか。私の魔法への興味関心は限界を知りませんでした。



 それで、ですね。えぇ、お察しかと思いますが、素直に喜べないという今の現状。何故かと説明しますと、私はどうやら王族として生まれてきたようなのです。凄いですよね。一市民であった私が、次の生では王族です。国のトップの家族です。かなり縛られることはあるでしょうが、やりたいことを何でもやらせてくれそうですよね。それこそ、我が儘お姫様としてアレコレ注文する、ということもアリかなと思うほど。



 さて、ここで私が魔法について喜べないと言いましたが、その直前までは魔法への意欲でいっぱいでした。それが、気が抜けたように、プシューッと音を立てて抜けていったんですよ。



 この国、この世界には、歳が5になった時にその者の才能を調べる儀式が行われるらしいのです。"才覚の儀"みたいな名だった気がします。そして私も5歳となりまして、その儀式に参加しました。



 儀式と言っても、私は特にすることなんてありません。ただ神官のような方の指示に従って、石版に触れたくらいですね。縦が1メートル、横が30センチ程の真っ白い石版に手をかざし、あとは神官さんの結果報告を待つばかり。何かな何かなと期待の眼差しを向けていました。



 この儀式では、その人の魔力適正を主に調べるみたいなのです。魔力適正というものは、その者が扱える魔力の色を指しています。魔力の色は、使える魔法属性を表すようです。初めこれを聞いた時、何故「色」というワンクッションを置くのか謎でしたが、理由は判明していません。たぶん、カッコつけたんでしょうね。ははは。



 では、色と属性を紹介しましょう。と、言っても概ね予想通りでしたけど。




 赤ならば火


 青ならば水


 緑ならば風


 黄ならば光


 黒ならば闇




 この5つが基本色......いえ、違いましたね。上3つが基本色。下2つが特殊色となっています。



 もちろん、基本色がノーマル。特殊色がレアです。



 それでですね。大体の平民は基本色を1つだけ持っているそうなんです。2つ持っていれば、かなりの地位が確約されている、と言っても過言ではないほどに、殆どの人は1つしか持っていません。3つ持っていれば、平民の英雄にでもなれます。たぶん。



 さて貴族の方々はと言いますと、皆が皆基本色を2つは持っています。3つ持ちもそこら中に居るそうです。この貴族は、優秀な者の血を継いでいるわけですから、優秀×優秀のサラブレッドは、もう優秀な子となるのは必然でして。基本色1つ持ちなんて、存在していません。......それをひねくれた思考で読み取るなら、基本色1つ持ちの子は消されている、という事でしょうね。



 えー、そうなるとですね。貴族は皆、特殊色に目がいく訳ですね。とりわけ黄、つまり光属性は人気です。なにせ、この光属性が王族の条件とまで言われていますからね。事実王族は王族で、光属性持ち×光属性持ちのサラブレッドを作り、光属性を途切れぬようにしていますから、この国の王族は黄色の適正を持っているのです。



 さて、私は魔法の説明を聞いていた時に、ある疑問が浮かびました。



『"闇属性"が"黒"を指すのであれば、"光属性"が指す色は"白"ではないのか』



 と、いうものです。



 黄色はどちらかと言うと、雷のような気がするんです。光と言うなら白の方が似合っていると思いませんか。それに、白の方が神聖な光を作れそうです。しかし、この世界には雷属性の魔法は無いですし、黄色は光属性なんですよね。礼ながら、「白黒つける」みたいな言葉はどうなるのかと考えてしまいました。



 そろそろ皆さんお気づきになられましたね。そうです、私の適正色は『白』でした。



 今まで見た事の無い色だったようで、周りにいる人たちは騒然。無色は知ってるけど白だと?と言う感じです。



 白という未曾有の魔力だけを持った少女を前に、神殿の方達は大慌て。これが平民の子供だったら楽しい騒ぎだったでしょう。なんや、凄いな、白ってなんじゃ、みたいな感じで。しかしその少女はこの国の王女。黄の適正色を持っていない、という事にしか注目が集まりませんでした。



 せめて、私の適正が白と黄だったら良かったのでしょうね。



 そして私は5歳にして、王家の恥と罵られるようになったのです。幸か不幸か、私の母様が父の正妻......つまりこの国の妃様なわけですね。えぇ、私は正式なるお姫様。でも、無能なお姫様という烙印を押されたわけです。それだけならまだ良かったのですが、最悪な事に母様の不貞が疑われる始末。国民からも人気のある母様を失落させかねない存在、となったのです。



 それからというもの、段々と腹違いの弟妹から軽蔑されるようになっていきました。彼らは皆、元々私や私の兄上達に良い感情を持っていませんでした。......まぁ、私も傲慢な兄上達に良い感情を持っていませんが。それはさておき、私は今までは正妃の娘という少し上の立場として見られていました。私は別にそんな事を考えていませんでしたが、彼らはそう考えていたのでしょうね。恐らく、彼らの母達が私達の事を敵と思えとか吹き込んでいたのでしょう。そんな私が、王族としての資格を持っていないと知れば、彼らの反応はもう分かりきったことで。



 私の存在により母様の信用が失われ、それをネタに腹違いの兄弟達は私の兄上達、つまり王太子達にも攻撃し始めたのです。蹴落とすチャンスとでも思ったのでしょうか。



 まぁ、予想通りと言いますか。それからというもの、兄上達からも虐めが始まったのです。彼等は自分達がこの国の頂点だと自負している方達でして、その傲慢さが私は嫌いでした。そんなプライドの高い人達の汚点を作った私は5歳の少女にやる事か、と。



 唯一の味方は母様だけ。ですが、母様はお体が弱い方でした。私の出産後、どうも体調が優れないらしく、滅多に会うことが出来ません。会うと言っても母様は常にベッドで横たわっていますから、私が話すだけ話して母様に頭を撫でてもらう、それだけしか出来ませんでした。



 そんな唯一の楽しみも、私の無能が確定してからは禁止されました。もしも前世の記憶が無く、孤独感に苛まれていれば、愛していた母様へ対して憎しみを覚えていたことでしょう。なぜ、私を見捨てたのか、と。



 しかし、私は知っていました。母様だけは私を蔑ろにはしていない、と。そうであって欲しいという願望ではなく、白という適正色が判明した時に見せた憂いた表情を見れば全て分かってしまいます。自身の名誉を傷つけてしまった我が子。母様こそ私を憎んでいても可笑しくない筈なのです。私を産んだせいで母様は寝たきり生活となってしまったのだから。それなのに、私へ対して変わらぬ愛情と自身の情けなさを混ざ合わせた表情に、私の胸が苦しくなったのです。



 母様との接触を少なくする事が母様の名誉を傷付けないで済む、それな唯一の報いだと察してからは、母様に会いたいと思う気持ちも押し殺しました。



 それからの日々は、えぇ、地獄のようなものですね。兄上達の命令でメイドの数は減っていき、残るメイド達からも冷やかな目線を頂きまして。挙句の果てに私は居ない存在として扱われました。最低限の衣食住しか与えられない生活です。



 そしてとうとう、その日が来たんですよ。



 軟禁されたのです。



 国の端っこにある、人口が少なく治安の悪い街。その一角にある、王家が所有している小別荘にぶち込まれ──失礼、住まわされました。屋敷から出ることは禁止。他者と会うことは禁止。何から何まで禁止禁止で、私は外界から隔離されたってことですね。言うなれば、追放処分。殺す事はしないが王宮に置いておく事も出来ない、となったのでしょう。



 そうして新しい住まいに越してきて、生活はあまり変わりませんでした。王宮に居た頃も贅沢なんてしてませんからね。対した違いが無かったのです。



 まだ5歳ですから、なにも出来ないわけですよ。食事も洗濯も掃除も、面倒くさそうに働くメイド3人に頼みきり。軽んじても良い、と考えられていたのでしょうね。私の食事は彼女達のものより質素でしたし、服も皺や汚れは残ったまま。扱いが雑なんです。でも、それを指摘する気にもなれなくて。



 私の存在を消す為に忙しなく走る人達。異母兄妹からの陰湿な虐め。実の兄達から浴びせられた罵声の数々。そして実の父親からの処罰。普通に傷付いては居たんですよ。その傷を癒すためにも、ぼーっと物思いに耽ける時間が多かったのです。



 それから──たったの2ヶ月後のことですよ。




 メイドの1人が消えました。




 唐突に消えたものですから、私としては事件に巻き込まれたのでは、と不安になったものです。ここは治安が悪いと聞いていますから、犯罪に手を染めているような危ない人なんて沢山います。私のせいで、と嘆いていたのも次の日まで。




 ──翌日、もう1人消えました。その日のうちに、最後の1人も。




 はい、ここまで来れば分かりますよ。えぇ、逃げたんですね。こーんな、なんもない街に住み込みで働かされて、無能なお姫様のお世話係なんて、苦痛だったんでしょうね。お金自体はかなり貰っていたはずです。その給与と、私の住む別荘内にある金目のものとで、相当なお金になっていると思います。彼女たちはきっと何処かでキャハキャハと笑いながら、美味しい飯でも食っているんでしょうね。



 もう、ピンチ。生命線が途絶えてますよ。食事は?家事は?私まだ5歳児なのよ?



 そんな訴え、誰も聞いちゃくれません。



 仕方ないので一人で生きていくしかありませんよね。



 さぁて、5歳児(そろそろ6歳児)よ。どこまで生きていけるかな?目指せ2桁10歳

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