じゅっいっちわめ


 呼び方を改めようとしないハクはのほほんとお茶を飲む。まるで無関心なハクにレオガイアは少しムカついた。


「名前。僕にもレオガイアという名があるんだ。そう呼んでくれないと困るな、ハクちゃん」

「......ちゃん付け......」


 再び呼び方を戻された事に憤慨したハクが頬を膨らませた。やはり"ちゃん付け"で呼ばれるのは気に食わないようだ。


「そういうこと。嫌でしょ、ハクちゃん」

「......むぅ......」


 僕も嫌なんだよ、強盗さんと呼ばれるのは、とレオガイアは続けた。


 それを聞いたハクは沈黙して、カップに入ったお茶を暫く見つめる。


「......わかった」

「お、分かってくれたかい。ちゃんと名前で呼んでくれよ」


 自分が求める呼び名で呼んで欲しい。それはハクも納得したようだ。


「ほらほら」


 ニコニコした顔でハクを焦らす。


「......レ......ア......」

「うん?なんだって?」

「......レ......イア......」

「もう少し声を大きくして」

「......レ......イア......!」

「聞こえないな〜?」

「......むっすぅ」


 ハクは舌足らずに加えて、長年人の名を呼んでこなかった影響か、顔を合わせて呼ぶ事に躊躇いが生じていた。その為、ボソボソとした声しか出せなかったようだ。


 出会ってまだ2日目だが、レオガイアはハクの舌足らずを理解している。理解した上でからかっているのだ。


 レオガイアが笑いながらハクに繰り返させた。頑張って自分の名を呼ぼうとするハクが可愛くて、と後に語る。


 そんなやり取りに嫌気が差したハクが頬を膨らませる。レオガイア、なんて長すぎる。呼びたくても呼べないのが悪い、とハクは責任をレオガイアへと転嫁していた。


「......レア......そう呼ぶ」


 そして、名を省略することに決めたようだ。最初と最後という2文字。これなら呼びやすい、とハクは頷く。


「レアって......女の子っぽくないかな?」

「......にあってる」

「あー、笑ってるでしょ」


 先程のお返しのように、ハクはニヤリと笑った。確かに、あまり男性向けの呼び名では無いかもしれない。それがなんだ。私は知らない。とハクは頑固な姿勢をとった。


「まぁ、強盗さんとか盗賊さんよりはずっとマシだからね。それで良いよ」


 レオガイアも悪くは無いな、と思っていた。なにせその名で呼ぶのはハクだけだ。特別な呼び名に思えた。


 満足そうに胸を張るハクを見て、レオガイアは微笑んだ。

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