なっなわめ
場所を移そう、という話になり2人はハクの案内で自室までやって来た。仮にも乙女の部屋に入るのはどうかと躊躇ったレオガイアだが、ハクが首を傾げたので諦めて入室した。
床に様々な物が散乱する少々汚い部屋。ベッド、机、椅子、そして水瓶だけしか置かれていない、あまりに簡素な部屋だ。確かに、乙女の部屋とは仮としても言えないな、とレオガイアがため息を吐いた。
「ハクちゃん、明かりは無いのかい?」
「......そんなもの、無い......」
入口付近に設置されてあるスイッチをいじるも、部屋に明かりが齎されない。使われていないボロ屋敷なのだから当然と言えば当然だ。
しかし、この空間にはハクが作り出している小さな光の玉しか光源がない。段々と目が慣れてきたとは言え、暗いことには変わりなく、もっと明かりが欲しかった。
「......暗い......?」
「ちょっとね」
「......これで、どう......?」
ハクが天井に手を向ける。すると、天井に吊るされている魔道具に魔力が集まり、そして起動、点灯した。途端に明るくなった事でレオガイアが目を瞑る。
(あの魔道具を魔石無しで付けたという事は、光魔法の適正があるということだよね......って事は貴族の子供なのかな......? いや、光魔法の使い手なら寧ろ重宝されるはずだ)
関われば関わるほど謎が増えていく。レオガイアはハクという少女に興味を抱き始めていた。
それから簡単に床を片付け、机と椅子を動かした。
「......じゃ、始めよう」
2人は向かい合うよう椅子に座った。
ハクの手には青色の液体が入ったガラス瓶が握られている。例の自白薬である。その蓋を外し、クピクピと呷った。
飲み干すと、その瓶を机に置いてレオガイアに向き直る。それから数秒も経たずして、ハクの雰囲気が変化した事にレオガイアは気が付いた。それは気の所為では無く、明らかに変貌していた。
それは自白薬の効果なのか、それとも──
そこまで考えたレオガイアは思考を辞め、一先ず実験を始めることにした。
「じゃあ、先ずは年齢を聞こうかな」
「......13です」
「13っ!?......え、嘘でしょ?」
5か6辺りを想定していたレオガイアはシンプルに驚いた。口調が変化していたことよりも、吐き出された情報に驚愕したのだ。
「......5歳でこの屋敷に軟禁......それから凡そ8年経過......13前後で間違いありません」
「そ、そうか......」
ハクの口から軟禁、という言葉を聞いてレオガイアは唇を噛んだ。やはりレオガイアの予想通り、ハクは親に捨てられてこの屋敷に居る。
何故、という理由は実行した者達にしか分からないだろう。類稀なる光魔法の適正を持っていても、捨ててしまう親は存在するだろう。
(捨てられた理由なんて、知られたくは無いだろうね)
それからレオガイアは気を取り直し、適当に質問をしていく。
「好きな食べ物は?」
「......ケーキです」
「詳しく言うと?」
「......いちごのショートケーキ、です」
「じゃあ、欲しいものは?」
「......魔物と呼ばれる生物......の、死骸です」
「何に使うの......?」
「......お薬を作ります」
質問の答えは可愛らしかったりそうでなかったり。やはりチグハグが目立つ少女だ。
「最後に、秘密をなにか教えてくれないかな」
「......殺したい相手がいます」
先程までと変わらない口調だが、妙な静けさを纏っていた。
殺したい相手が居る。
それがハクの秘密なのか、とレオガイアは生唾を飲み込んだ。
「......それは?」
踏み込んでは行けないと知りつつ、気になってしまった。なんだかんだで優しいこの少女が殺意を抱く人物を。
「......ハクちゃん?」
今までは自白薬の効果なのか、円滑に答えが返ってきていたと言うのに、今回は沈黙している。返事がないハクに違和感を覚えた。
すると、ふらっとハクが横に揺れた。肉体には力が入っていないように見え、そのまま体は横に倒れる。
「あぶないっ!」
慌てて飛び出し、床に直撃する寸前でハクを受け止めた。
(軽い......)
腕に掛かる質量は想定よりずっと軽い。歳が4つしか離れていないとは思えない程に軽かった。
頭を打つ前に救えた事に一安心する。一息吐いて、ハクを抱えたまま立ち上がった。
「......寝ただけかな?」
レオガイアの腕の中で、ハクはすぅすぅと可愛らしい寝息を立てている。確かに今は深夜。眠い時間帯である。
そんな中自分を助けてくれたのかと思うと、やはりハクは優しい子だと感じる。
そんなハクが、軟禁された理由とは。ハクが殺したい相手とは。
レオガイアの興味は尽きなかった。
「可哀想、と同情しているのだろうね」
ふっ、と自嘲気味に笑った。悲劇に見舞われた少女を可哀想だと思う事で善人ぶりたいだけだろう、と。
低過ぎる身長、軽過ぎる体重。その原因は栄養失調にあると睨んだ。そもそも、こんな所でまともな生活を送れるのだろうか。食事を摂れるのだろうか。
まともな食事は摂れていないのだろう。さもなくばこのような身体にはならないはずだ。
ハクを優しくベッドに下ろす。小さな体には合わない大きいサイズのベッドだ。何故かこのベッドだけは妙に新しく、柔らかく、寝やすそうであった。
そんなベッドの上でハクは眠る。息が苦しくなると思い、失礼な行為だと認めはしたが顔を覆うフードを外した。ハクの素顔を見たかった、という思いもあったのだろう。
「......っ!!」
声質から可愛らしい少女だとは思っていた。しかし、それはレオガイアの想像を遥かに超えていた。
珍しい銀髪。長いまつ毛。小さな鼻。柔らかそうな唇。パーツがバラバラで存在していても美しく、全てが揃うことでその美しさを倍増させる。そんな風に感じた。
(落ち着け。ハクはまだ子供じゃないか......と言っても4つしか変わらないんだよね......)
ドッドッドッと心臓が高鳴る。
誰も居ない屋敷の、とある部屋。大きめなベッドで眠る美少女。
(僕は何を考えているんだ......!?)
此処に長居すれば間違いを犯しかねない。レオガイアは命の恩人に手を出す無礼者では無かった。
急いでメモを残し、部屋を出て屋敷を後にした。
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