よっんわめ
「ハクか......ここはハクちゃんの家なのかな?」
「......強盗さんの質問に......答える義務、ある......?」
ハクはあまり機嫌が良くなかった。新薬の試飲を邪魔されたこともそうだし、名を聞かれた事にも腹を立てていた。そして、この馴れ馴れしい男の存在が気に食わなかった。
「ご、強盗って......いや、不法侵入は認めるけどさ」
「......強盗さんに......人権無し」
ハクは指先に炎を作り出した。明かりとして作ったのではなく、明確な殺意を持った炎。それを見たレオガイアは慌てる。
「ま、待ってくれ!ほんと違......ぐっ......」
弁解の為に口を開いたが、直ぐに呻き声を漏らした。そして腹部を手で抑えて顔を歪める。
「......怪我、してるの......?」
レオガイアの状態を察したハクは指先に集めた魔力を消した。
「あ、あはは......ちょっと事故っちゃってね。命からがら逃げ込んだらこのザマなのさ」
「......ふーん......」
軽い口調で答えてはいるが、容態が悪い事は表情から判断出来た。
ハクはごそごそとポッケを漁る。そして、2つの小さな瓶を取り出した。
「......これ飲んだら......これあげる......」
ハクが右手に持っているのは青色の液体が入ったもの。左手に持っているのは緑色の液体が入ったもの。その2つをレオガイアの前に吊るした。
「え、それ、なに?」
素顔をフードで覆い隠した少女が取り出した2つの瓶。中身の液体は綺麗な青色と緑色で、外見からしても非常に怪しい物体だ。知り合いに渡されてもギリギリ飲まないたろう。それが、素顔さえ明かさない謎めいた少女からのものとなると、警戒心の方が強くなるのは当然だ。
「......こっちは、自白薬......こっちは、回復薬......」
「自白薬!? それを、なんで僕に飲ませるのかな......!?」
ハクはレオガイアの質問に対し、ハクは少し恥ずかしげな雰囲気で答えた。
「......私だけだと......効果がイマイチ分からなかった......」
「え、試験体って事?」
「......そう」
ゆらゆらとハクは体を揺らした。そこから読み取れる感情は、喜び。今まで作ってきた薬品の幾つかはまだ実験結果を十分に取れていなかった。その理由は至極簡単なもの。主観的な意見だけでなく、客観的な意見が必要だった。
これでモヤモヤが晴れるぞ、とハクは喜んだ。
コロコロと変わるハクの雰囲気にレオガイアは戸惑う。しかし、幼齢故に感情が安定していないのか、と1人で納得した。
「......で、飲む......?」
「い、いやぁ......先に回復薬をくれないかな?」
レオガイアが先に回復薬を求めたのも無理は無い。初対面の少女ハクが差し出した回復薬が、どれ程の効果があるかも分からない。
「......要らないなら......死んで」
「飲む、飲むよ!飲ませてくれ!」
嬉々とした雰囲気から再度一転。暗く穏やかじゃない雰囲気を纏った。それに気付いたレオガイアは慌てて叫ぶ。
レオガイアの飲ませて欲しい、を了承したハク。青色の液体が入った瓶を手渡した。
「......あ、メモ取らないと......」
そう呟いたハクは軽い足取りで自室へと駆けて行った。
「......」
残されたレオガイアは渡された青色の液体が入った瓶を見つめる。容器は片手で握れるほど小さく、容量もかなり少ない。揺らすと中に入っている液体も揺れた。
ガラスで出来た瓶の蓋を外し、手の甲に一滴落としてみる。それをペロッ、と舐めた。
「ふむふむ、味は悪くない。むしろ甘くて美味い。舌も痺れないし、毒性は無さそうだね」
しかし、これを飲み干す勇気は無かった。中身をボロボロなカーペットに染み込ませ、処分する事にした。量もそれ程無かったことが幸いした。
それから1分も経たずにハクが戻ってくる。手には紙と筆が握られていた。
「......飲んだ......?」
「あぁ、この通り」
ハクが見えるように──フードで隠れている為見えているかは分からない──空になった瓶を持ち上げる。それを確認したハクは嬉しそうに頷いた。
その様を見て若干心苦しさを覚えたが、レオガイアは保身を優先させた。
「......じゃあ、質問......貴方の名前は......?」
「レオガイア」
「......年齢は......?」
「17」
「......えと......ほか......」
ハクはうーん、と悩む。コミュニケーションを長らく取っていなかったために、初対面で聞く質問が思い浮かばなかったのだ。
それから数十秒程悩んだ末、レオガイアが手で押えている腹部に注目した。
「......その......なんで、傷を負ったの......?」
「......女の子に刺された」
僅かな躊躇いを見せたが、自白薬を飲んでいる体である為正直に話した。それをハクは必死にメモを取っている。
「......なんで......?」
「......分かんない。別に付き合ってた訳じゃないんだけどね。同じパーティだから親しかったけど」
「......ふーん......ご愁傷さま......」
「ありがと」
ガリガリガリガリ、とハクが文字を綴る音が暗い廊下に響いた。
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