さーんわめ

 一冊目の魔導書を閉じた少女は他の本の中身も確認していく。


 すると分かったことがある。どうやらこれらの本は、使い方が特に難しく、価値のないものとして扱われた魔法が載っているものが多かった。勿論、ただの基本。ど基本的な魔法もちらほらとは載っている。が、少し......いや、かなり独特な魔法ばかりしか見つからなかった。


 ここを使っていた者──つまりは少女の先祖──の趣味が、かなり変わっていたことだけを理解した。因みに官能小説の中身もチラ見したのだが、変わり種ばかりだった事には触れないでおこう。


 変色の魔法が載る本は横に積み上げ、ド基本的な魔法が載る魔導書だけを抱えて居間へと戻る。5歳児の肉体では一冊が限度であり、テトテトもこれを繰り返し、およそ10冊の魔導書を居間に揃えた。



「ふぅ......さて、私にはどの属性に適性があるか、調べていこう」



 少女は床に置いた魔導書を読みながら、基礎魔法の使用法を理解していく。


 頭を抱えながら読むこと数十分。基礎魔法に関しては理解することが出来た。


 基礎魔法の発動は簡単である。魔法原理自体を理解していなくとも、これらの魔法は『魔法言葉』の詠唱と魔力消費、そして魔法適性。その三つが揃えば基礎魔法は発動する。詠唱文句が古い言語であった為、それを解読するのに時間を要してしまったようだ。


 例えば──


「私が命ずる 魔素を糧に この手に灯火を──《火生成》」


 ──という詠唱を行えば、少女の体からぐんと力が抜け、指先にぼんやりとした炎が灯る。これで火属性基礎魔法火生成の成功だ。


「お、おぉっ、おおぉぉぉっ!やったぁっ!」


 少女は心の底から歓喜の声を上げる。夢にまで見た魔法である。この世界にやって来て、今までで一番の喜ぶ瞬間となった。下がり続けていた気持ちが少しだけ上昇したことをハッキリと感じる。


 数秒程だけ炎は存在したが、その直後に消えてしまった。どうやら基礎魔法ではこの程度が限界らしい。


 王城に暮らしていた時に見た、《着火》と呼ばれる火属性魔法の劣化版のように感じた。先の魔法では何かを燃やす、という行為まで至れない予感がするのだ。端的に言うなら火力不足。基礎魔法だから仕方ないと諦める。


 体の具合を確かめる。肉体から魔素がズルリと抜けた感覚。それによりかなりの脱力感が残っていた。


(思いっきり走った後の疲労感)


 彼女はそう感じた。前世では魔法というものが存在しなかった。そのため魔力が抜ける、という感覚を言い表すのならばそうであったのだ。様は体力だな、と彼女は最後にまとめる。


 火属性魔法を使った後に、熱や臭いが残るということは無かった。燃焼しているものは酸素ではない、他の何かなのではないか、と彼女は予想する。


 この世界の人間の構造が前世の頃と同じとは限らない。もしかしたら酸素の代わりに魔力で生きているのかもしれない。


 しかし彼女の常識として、生物には酸素が必要であり、物を燃やす時にも酸素は必要としていた。故に先の魔法は彼女が知る"燃やす"行為とは別物と考えるべきなのであろう。


 魔力で炎を作る。《火生成》とは言い得て妙かと頷いた。これならば窓をわざわざ開けた意味はなかったかな、と後悔する。


 余談だが、窓の鍵に手が届かなく、椅子を運んだりと悪戦苦闘していたのだ。

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