にーわめ



 食事を摂り終えた少女は一人呟く。


「目下、水問題の解決に力を入れよう」


 残り少ない水を水瓶から掬いとり、一気に飲み干して喉を潤した。水瓶に蓋をする前にその残量を確認する。今のペースで飲んでいくと、持って3日。それまでに水の調達を考えねばならない。


 人間には水分が必須。生存する為にはいの一番に解決しなければならない問題だった。


 そして贅沢を言えば、日本の現代人として生きていた彼女にとって、何日も瓶に入れて放置された水を飲みたくない気持がある。別に汚いとかそういう事はない、と頭ではわかっているが口に入れる時、若干の抵抗があるのだ。


 なるべく新鮮な水を。彼女はそれを望んでいる。


 この世界で、綺麗な飲料水を手に入れる事。実はそれ程難しくはない。この世界は、科学を魔法で、電気を魔力で実現しているような世界。火も水も、光も風も。全ては魔法によって作り出すことが可能なのだ。


 よって、どこの家にも『水道』という魔道具が設備されている。この『水道』に魔力を流すことで水は生成される。以上。水の作り方である。


 しかし、ここで問題となることは、『水道』の有無ではない。魔力の方に問題があるのだ。


 魔道具を使うためには、それ用の"魔石"が必要となってくる。基本的に、『水道』ならば"水の魔石"を。『コンロ』なら"火の魔石"を。『電球』なら"光の魔石"を。『乾燥機』なら"風の魔石"を。


 自身の魔力だけでも可能ではある。しかし、魔道具を使うために要求される色──属性を揃えなければならないのだ。そして、人には使える属性というものが、先天的に決まってしまう。使えない属性が出てくるのである。


 そこで魔石を使い、足りない属性を補う、という訳である。また、魔石には空気中の魔力を、微量だけ回収する能力があり、小さな低級の魔石でも一月は使い続けることが出来るのだ。勿論、使い方をかなり抑えて、ではあるが。


 加えて中位や高位の魔石を使えば、自身の魔力を注ぎ込んで使うこともできる。そうすることで、半永久的に魔道具を使うことが可能なのだ。



 現在この魔石が手元にない。



 魔道具はあるのに魔石だけがない、その理由は。魔石が金目のものであったからだ。ここは腐っても王族の所有宅。かなり良い魔石を魔道具に使用していた。それら数個だけでも家が建つ程、高価な魔石だったらしい。逃走したメイド達に根こそぎ持っていかれたので、この家には魔石が無いのだ。


 故に、水を出せるか否かは少女の適正に掛かってくる。『白』という未曾有の魔力は何が出来るか分からない。もしかしたら、が有り得ると少女は考えていた。


 しかし適性があったとしても、少女が持つ魔力量などたかが知れている。満足に水を作り出すことはできるだろうか。魔力量は才能に依る。こんな生活を強いられているも、彼女は立派な王族エリート生まれ。些か不安が残るものの、この少女が生き残るためにはやらなければならないのだ。


「ぐ、ぐぐっ......」


 と思い、水道に触れようとするも、身長が足りない。諦めて椅子を運び、その上に乗り、水道に触れ──使用方法が分からない。


 魔石があればレバーを上げるだけで水は出る。つまり、その魔石を付ける部位に触れて、魔力を流しながらレバーを上げれば良いのだろうか。魔力を流すってなんなんだ。


 ここで少女は断念した。


 次に少女は家の中を探索することにした。メイド達が居た頃はその監視があって、自由に動くことが出来なかった。この機会に見ておこう、と探検を開始した。


「本がたくさんある」


 少女が押し込まれたこの屋敷。昔は小別荘として使われていた為か、娯楽用の小説などは少なくない。主に官能系の。また、趣味として集めていたのか、魔導書なる魔法の使い方が載る本も幾つか見つけることが出来たのだ。


 そこで彼女が目をつけたもの。それは使い方の分からない魔道具ではなく、使い方が分かるかもしれない自身の魔法。もしかしたら何かの適性があるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、魔法習得に一歩踏み出したのだ。


 実を言うなら、彼女の前世はオタクな女子であり、魔法なるものファンタジーに少なくない憧憬があった。確かに魔道具も素晴らしいが、見た目も性能も彼女の知る「水道」やら「電球」やらと何一つ変わらない。つまり、面白くなかったのだ。......決して使い方が分からない故に嫌った訳では無い。


 中身が大人と言ったが、彼女は5歳児の身体に引っ張られている節がある。感情を優先してしまうのも無理はなかったのだ。


「うへ、難解だぁ......」


 試しに魔導書の一つを手に取り覗いてみる。『転生者』ということもあり、この歳で既に文字の読み書きは可能となっていた。王城では子供用の絵本を読み尽くしたという記憶が新しい。あの生活の中での唯一と言っていい娯楽であった。それゆえに奇異な目線を向けられようと、何冊もの本を読破していた。それ以外にすることがなかった、と言えばそうであるが。


 しかし、この魔導書に書かれている言葉。読むことはできる。が、理解できるかどうかは甚だ疑問だ。

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