じゅーうわめ

「道具は良し......次に、水......水か......」


 自室に戻った少女は錬金術に関する本を読み、次に必要なものを解読した。それは水。鍋の八割近くを満たす水が必要なのだとか。


 水銀とか言われなくて良かった、と少女は安堵する。前世の記憶にある、ぼんやりとした錬金術の知識は水銀だけだった。それが素材なのか生成物なのかは覚えていないが、とにかく錬金術と言えば水銀だった。水銀の存在は知っているが製法なんぞ知らない。それが素材だよー、と言われたら詰んでいた。


「魔力無いしな......後でにしよう」


 必要なものは水。とても容易に用意はできるが、少女には魔力が残っていなかった。いや、事実を言うならば魔法を放つ魔力自体はあるが、魔法は発動出来ない状態であった。


 魔力増幅にあたり、限界を超えた後には魔力が完全回復するまで魔法は使えない、というルールも発見していた。意外な事に魔力量が増えるに従って回復速度も上がった。その為、現在は2時間足らずで全快まで至る。つまり、あと1時間ちょっとは魔法を使えない。


 とにかく今は出来ない。もどかしさを感じるも諦めて、他の材料を集める事を選んだ。


「えっと、薬草、かな......あれ、私は何時から薬剤師になる為の本を......?」


 読み進めると、次の素材は薬草らしい。ハッキリと必要なものは薬草です、とは書かれていないのだが、魔力を多く含んだ植物と記されている。となると、薬草以外に思いつかなかったのだ。もしかしたら別の植物があるのかもしれないが、その時はその時。少女は次の素材は薬草だと確定させた。


「仕方ない......採ってくるか......」


 はぁ、と溜め息を吐いてから、愛読書の1つである『植物大全』という分厚い本を抱えてペタペタと移動を始めた。敷地内から出てはいけない、という決まりだ。庭は敷地内だよね、と別に守る気もない縛り事に準じながら庭へと出る。


「うんうん......万が一の時に備えて見つけておいて良かった」


 王族所有の屋敷として恥のないだだっ広い庭。長年放置され続け、手入れがされていない庭は草木がぼうぼう。まともに歩くことも難しい程の雑草だ。


 嘗て畑のように使われていた、と思われる地帯には、野菜やハーブなどの香草などが自然化して生えている。その一角には薬草が群生しているのを発見していた。


 最後に持ってきた『植物大全』で確認して、これが薬草だと断定する。


「ふ〜んふふん、ふふふ〜ん」


 鼻歌を奏でながらプツプツと薬草を摘んでいく。雑草のように生えまくっているので、根っこからとか根っこを残してとか、特に気にしないで抜いた。


 それから数分程採取を続けると、両手で抱える量になった。これくらいで十分だろうと満足する。久々の運動で良い汗をかいた。これから庭いじりでも始めようかな、と思った程だ。


 薬草を抱えて屋敷の中に戻る。それからまた庭に戻り、重たい本を抱えて屋敷に入る。


 これで薬草の調達は完了だ。

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