じゅーいーちわめ

「はうっ!?......寝てたか......」


 薬草採取を終えてからベッドの上で錬金術に関する本を読んでいると、どうやら肉体の限界を迎えて眠ってしまったらしい。幼い体は不便だな、と思いながら欠伸を漏らし、うんしょ、と立ち上がった。


「魔力補充完了。やるか」


 テトテトと台所まで駆けていき、それからまた自室に戻ってきた。


「足場ー足場ー」


 水瓶が大きい為に身長が足りなかった。丁度いい大きさの足場を見つけることが出来ず、仕方なく椅子を引き摺っていく事にした。


 ギギギギギッと音を立てて台所まで引いていくと、その上に飛び乗った。


「うん、これなら出来そう」


 椅子の高さに満足して頷いた。


 それから長い棒と薬草を取ってくると、錬金術の支度を整えた。


「水......水、水、水」


 水瓶に手を翳し、魔力を放出して水を作り出す。じゃぽんっじゃぽんっと水を入れていくと、4発目で十分な量になった。


 そこに薬草を全て投げ込み、棒を握った。因みに棒とはそこら辺で見つけた箒の柄の部分だ。先の部分はどこかへ消えてしまっていたが、少女は特に気に留めなかった。


「えーと、確か、魔力を注いで混ぜる、だっけ」


 本の内容を思い返しながら、ゆっくりと混ぜ始めた。魔力を注ぐ、というイメージにはアテがあり、それを頭に浮かべて注いでいく。


 手から棒、棒から水へと魔力が流れていく。それを確かに感じ取りながら、ひたすらに混ぜる。


 浮き沈みする薬草をぼんやりと眺めながらクルクルと回し続けること数分。何も変化の起きない水と薬草に、少女は笑いが込み上げてきた。


「ぷふっ、ふふっ、あはははっ!何やってんだろ、私」


 そこら辺で採った葉っぱを入れただけの水。そんなものを熱心に混ぜる自分がおかしかった。これで何か変化が起きるというのだろうか。


 それでもクルクルと水瓶の中を掻き混ぜる。魔法使用以外に見つけた、のめり込めそうな趣味。こんな序盤で諦めたくは無い。その一心で混ぜ続けた。


「ふ、ふふっ......ふふ......虚しいなぁ......」


 水瓶を見つめ、その水面に映る自身を見つめ。棒を回す作業は精神的にクルものがあった。


 ぽたぽたと涙が零れ落ちる。 


 ずっと抑えてきていた孤独感が溢れ出てきてしまった。なんで、自分が惨めにこんな事をしなきゃいけないんだ。なんで、自分がこれ程までに苦しまなきゃいけないんだ。


 魔力を注げば注ぐほどに、負の感情が伝わり身を襲う。抜けた魔力を埋めるように、その代替のように少女の肉体を蝕んだ。


 悲哀、空虚、憎悪、嫉妬、絶望、殺意。


 今まで感じなかったものが自身に侵入して染めていく。その感覚は魔力を全て失い、闇に落ちていくものに等しかった。


 この苦痛には慣れている。散々味わい克服してきたものだ。


 しかし何故だ。この、ぽっかりと空いた胸は。温かみというものを失ってしまった心は。


「うっ、うぅっ......ぐすっ......」


 少女は咽び泣く。


 泣きながらにも掻き混ぜる手を止めなかった。少女にはそれしか出来なかった。少女にとって、それだけが抗う術だった。

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