にっっじゅっにっっわめ

「......けぷっ......ごちそうさま」

「うん、美味しかった。ごちそうさま」


 それぞれチーズケーキを完食した。量がずっしりとあった為か、ハクは少し苦しそうだ。


 ハクはお茶を啜りながら、ケーキの甘味に酔いしれる。唇に付いていた欠片を舐め取り、また嬉しそうに味を噛み締める。視線をケーキの無くなった皿から上に持ち上げ、レオガイアの顔を視界に入れた。


 そしてレオガイアと目が合った。


「......なんで、見る......」


 ハクは頬を膨らませながら不満げに呟いた。


「ハクが目の前に居るから、仕方ないじゃないか。あ、フードで顔を隠すのは無しだからね」

「......うぅ......」


 ハクはフードに伸ばした手を引っ込めた。やはり見られるのは恥ずかしいのか、代わりに両腕で顔を覆って隠した。


「なんでハクは顔を見られるのが嫌なのさ」

「......恥ずかしい」

「そうなんだ。けど、僕の前ではフードを外して欲しいな。礼儀みたいなものと思ってさ」

「......うん」


 ハクも、フードを被りっぱなしというのは無礼だと理解していた。しかし、長年の非コミュニケーション生活によって、他者に素顔を晒すということに抵抗が生まれてしまっていた。異性であるレオガイアには尚更気恥しさを覚えてしまう。


「あぁでも、僕以外の前なら別に構わないからね」

「......うん......?」

「むしろ着けていなきゃ駄目だ。ハクは不用心だからね。分かった?」

「......わ、分かった......」


 レオガイアの言葉にハクは頷いた。頷かざるを得なかった、とでも言うべきか。いつも通りの笑顔の奥に、何かがチラリと見えたのだ。


 それから他愛も無い話を続けた。と言っても、基本的にレオガイアが魔物狩りや遺跡探索に関する事を語るだけ。ハクはそれを静かに聞き、気になる事を聞くだけだ。そんな時間が流れてゆく。


 二人で過ごす時間は何よりも楽しかった。


 レオガイアにとって、ハクの前では自然体で居られる。なんの柵を感じること無く、最も気を弛めた状態で話すことが出来る。


 ハクと過ごす時間はレオガイアにとって安らぎであった。



 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、夕方となった。レオガイアは拘束具を取り付けた男達を引き摺って帰ってしまった。


 それを見送り、また明日を楽しみに待つことにする。


 ハクは1人になり、錬金釜の前に立った。古びた釜の縁を触りながら思案する。


「......何を......作ってたっけ......」


 今朝浮かべたアイディアが吹っ飛んでしまったようだ。それもそのはず、作ろうとした段階で邪魔が入ってしまった。それから今まで他の事に意識を向けていたため、記憶が曖昧になっていたのだ。


 あの男達を呪いながら、とりあえず用意していた素材を釜の中へと放り込んでいく。毛皮、角、心臓、目玉。ちゃぽんちゃぽんと音を立てて錬金釜に投入した。


「......あぁ......あれの試作、か......」


 全て投げ込んだ時点で記憶が蘇った。作ろうとしていた物の形を頭に浮べる。そしてハクは専用の杖を握り、鼻歌を奏でながら錬金釜を掻き混ぜはじめた。


 その行為は夜更けまで続いた。

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