にっっじゅっさっんわめ
強盗が入った2日後。ハクとレオガイアはケーキを食しながら話に花を咲かせていた。クスクスと小さく笑うハクを見て、レオガイアもまた微笑んだ。
昨日今日と襲撃は無い。2日前の一度だけで、それ以降の音沙汰は何も無かった。
ハクの屋敷に施されている防犯の魔道具は全て優秀なもの。ハク自身にも護衛手段があると分かり、強盗に入られても対処は可能だろう。また、盗まれて困るものも無いらしく、ハクの身が護られていれば問題は無い。
そう思う事にして、胸中を燻る不安を拭った。
「そう言えばハク。アレはなんだい?」
「......ん......?」
レオガイアが指を差したのは、壁に立て掛けられた筒状に巻かれたもの。それは実に重厚感のある絨毯だ。周囲に合わない程綺麗である為かなり目立っている。
「......空飛ぶ絨毯......の試作品」
指摘された物を見て、ハクは気だるそうに答えた。
「へぇ。まだ完成はしていないんだ?」
「......うん......」
ハクは目を伏した。どうやらあまり触って欲しくなかったものらしい。いつも作ったものをドヤ顔で披露するハクだ。アレは試作品、と言うよりも失敗作に近いものなのだろう。
慌てて視線を絨毯から横に逸らして、そこにある物に目をつけた。
「その隣にある箒は......」
「......空飛ぶ箒......の試作品......」
「そっか......」
これまた地雷だったらしい。2個とも空を飛ぶ、という目的で作られ、失敗したものだった。
ただ、レオガイアには疑問があった。魔法袋や身代わりの首飾りを作れるハクが、飛翔する類の魔道具を作れない訳がなかった。簡単では無いのだろうが、制作難易度自体は後者の方が低い。
「使えないのかい?空を飛ぶ......ハクなら出来そうなことだと思うけど」
このまま話題を逸らすことなんて出来ない。そう判断したレオガイアは、ハクの手助けになるべく踏み込む事にした。
「......飛ぶ機構は、付けた......けど......」
「けど?」
やはり、ハクは空を飛ぶという魔道具自体は作れていたらしい。そこから、何か問題があるようだ。
天才であるハクが躓いた問題とは。ゴクリと唾を飲んでハクに言葉を進めさせる。
「......すぐ落ちる......」
「ぷっ!」
「......っ!笑った......!」
「あはは!ごめんごめん」
レオガイアの脳内では、ハクを乗せた絨毯が浮かび上がり、前進すると同時にハクを振り落とすというイメージが出来ていた。箒も同様、ハクを乗せた箒は浮かび上がるものの、動き出すや否やハクを捨てて飛び去ってしまう。その光景を想像して、思わず吹き出してしまった。
「......固定具でも、付けようか......」
ブツブツと呟いきながら改善策を模索するハク。やはり自身が"落とされない"工夫をなさなければならないようだ。
「じゃあさ、この前みたいに魔法で支えてみたらどうだい?」
「......この前......あ、落ち掛けた時の?」
「そう。あれも魔法だろう?」
「......うん......レア、名案かも......」
レオガイアのアイディアを早速実験しようとハクは動き出した。絨毯を浮かして運び、広い廊下へと足を運ぶ。
床に絨毯を広げた。大きさも中々なもので、横2メートル、縦4メートル近くある絨毯だ。1人で使うにはあまりにも大き過ぎる。そのレオガイアの感想は、以前にも感じたことのあるものだった。
「......んしょ......よし」
ハクは絨毯の上に立った。そして絨毯に魔力を流すと絨毯に仄かな光が灯る。魔道具が起動した証拠だ。その光が魔法陣を描き出し、絨毯に浮力を与える。
「浮いたね」
「......ここまでは......いつも......」
ふわりと絨毯は浮いた。しっかりと5センチ近く床から離れている。
ハクは絨毯の上で魔法を使ってバランスをとる。体全体を魔力で支え、落とされないよう意識する。
そしてそのまま絨毯を前進させた。ゆっくりと加速させ、走るのとそう変わらない速度まで上がる。
「......ふおぉぉぉ......!」
ハクは落ちていない。何時もなら、動き出して間もなく振り落とされていたのだが、今回は落ちていない。魔法でガチガチに支えているから落ちるはずもないのだが、それでもこれは嬉しかった。
途中で引き返し、レオガイアの前まで戻ってくる。
「......レア......できた......!」
ハクは喜びに満ちた笑顔を作り、鼻息を荒くしてレオガイアに報告した。夢にまで見た空中浮遊。ハクのテンションは最高潮に達していた。
「おぉ、すごいすごい。じゃあさ、絨毯を無くしたらどうなるのかな?」
「......ん......?」
レオガイアの提案にハクは首を傾げた。しかし、また新しい発見があるのかもしれない。自分だけでは見つけられない発想というものがあると、ハクは認めていた。
言われた通りに絨毯から降りて、自身の体を浮かせてみる。
「......あれ......?」
「それでいいんじゃないのかな?」
「......うあ......?」
ハクの体はしっかりと宙に浮いている。床から足は離れ、ふわふわと浮いている。
前に動こうと意識して、魔法を使えば前へと動く。左右にも、後ろにも、上下にも動いた。速度もそこそこに出せそうだ。
「......ぐすん......」
「あはは。ハクって少し......いや、なんでもないよ」
ハクは空中で小さく丸くなった。ふわふわと漂いながら拗ねている。そんなハクの姿を見て、レオガイアは小さく笑うのであった。
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