じゅっにっわめ

「それで、ハク」

「......なぁに?」

「あの水瓶について聞きたかったんだよ。部屋に置いてあるの?」

「......あれは......私の、趣味......」


 レオガイアが抱くべき当然の質問にハクは小さな声で答えた。


「趣味?それって、薬を作ることかい?」

「......ん......それも、ある」

「薬の他......もしかして、魔道具?」


 レオガイアの頭を過ったのは、昨晩引っかかった罠。あんな罠を見た事無いし、今日見せた反応からしてハクの特製品だと判断出来る。


「......せいかい」

「すごいね。魔道具を作れる人なんて殆ど......待って、あの水瓶の話だよね?」

「......そう、だよ......?」


 ハクはこてんと首を傾げる。どちらも話の路線を変えてはいないのだ。


 レオガイアだけが頭を悩ませる。ハクという未知数な存在に、まだ驚かされなければならないのか、と。


「あれで何をしているんだい......?」

「......錬金術......」


 レオガイアの質問に対して素直に答えたハクだが、直ぐに後悔していた。錬金術は禁忌の技。流れ込んできた知識によれば、かつて居た錬金術師達の殆どは教会に消されたらしい。


 消されたのは非人道的な、またはあまりに人知を超えた力に触れた人達。神に刃を向けようとした、と言われて処刑されたようだ。


 残ったのは大した力の無い者達。錬金術の基礎程度しか行えない者達だった。


 そんな彼等は薬品だけを作るようになり、そして後世に錬金術としての技は伝えなかった。彼等は錬金術が危険なものだと理解しており、人が得ていいものでは無いと気付いてしまった。


 薬を作るためだけの技を残し、それを身に付けたのが今の薬師なのだ、と知識にある。


 そんな錬金術を趣味だと言ったのだ。引かれて当然。嫌われて当然。関わらない方が良いと判断されるに決まっている。


 しかし、レオガイアのリアクションは無かった。


「......驚かないの......?」

「いや、驚きたいのは山々なんだけど、僕はその錬金術と言うのを知らなくてね。何か、秘伝の技だったりするのかな?」


 と、笑いながら言った。


 それを聞いてハクは胸を撫で下ろす。確かに、錬金術という存在はとうの昔に消えたのだ。それを知る者はもう生きてはいないだろう。


「......知らないなら......知らなくていい」

「え、酷いなぁ。教えてくれないのかい?」

「......知らない方が......いい」


 ハクが強くそう言うと、レオガイアはそれ以上追求することを辞めた。ハクが頑固、という理由もあるが、聞かれたくない内容だと理解しており、踏み込んではいけない線引きはしっかりとしていた。


「んー、じゃあ、薬を作っているところとか見せてくれないかな?」

「......それなら......これ」


 見せるだけなら別にいいか、とハクは了承した。右手の人差し指を天井に向けて立てる。その先に頭程の水球を作り出した。


「......変質」


 呟いた途端にその水が色を変えた。一部に緑色が落とされ、瞬く間に全てを染め上げる。


「なるほど......それが錬金術、ね」


 見ただけでは何をしているのかさっぱり分からなかった。色を変えただけのようにも見えるが、空中に浮かぶその緑色の液体がただの水には思えなかった。何かしら効果を持った液体に変わっているに違いない。


「......うん......これは序の口」

「因みに、僕に淹れてくれたコーヒーは......」


 現象は似ていた。色が緑か黒かの違いしかない。


 恐る恐る尋ねてみれば、ハクはコクリと頷き答えた。


「......錬金術で作った......不味かった?」

「いいや、結構美味しかったよ」

 「......そう......良かった」


 レオガイアの言葉に、ハクは嬉しそうに呟いた。

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