にっわめ

 8年間使い続けた錬金釜、元水瓶の横に置いてある台に乗った。幾度の使用により釜の中はかなり汚れてしまっている。一度本格的に掃除を行ったのだが中々落ちてくれなかった。それ以降、これは汚れではなく柄なのだ、私の努力の結晶なのだと考えるようにしている。


 そんな錬金釜に水をぶち込み、上から眺めて口角を上げた。


「......れっつあるけみー」


 抜けた声を上げて錬金を開始する。


 握りやすく作った棒をローブに付けてあるポッケから取り出すと、錬金釜に突っ込み掻き混ぜ始めた。ぐるぐるぐるぐると回しながら魔力を注いでいく。


「......望むのは、身長......肉体大幅改変の薬となると......ふふふ......何十回目で出来るかなぁ......」


 少女は不敵な笑みを浮かべながら思案する。効果の大きいもの程作るのは難しい。不老不死にも手を出した事があるが、触れただけで必要な時間と魔力を悟り諦めた。何でも作る事は出来るが、現実的に作れないものもあるのだ。


「......変化はゆっくり......一度の服薬で1センチ伸びる......」


 錬金術で出来る事は基本的に"変質"のみ。そして、ぶっちゃけてしまえば魔力だけで何でも作る事が出来てしまう。ただし膨大な時間と魔力が必要になってくる。


 例えば回復薬1つ取ってみても、効果の薄いものなら魔力と水だけでも直ぐに出来るが、部位欠損を治すような効果の高いものとなると、水と魔力だけでは丸1日要してしまう。魔力は結構余裕があるのだが、時間は有限だ。


 その補助として素材を入れる。そうすると時間短縮と魔力節約が出来るのだ。


 しかし、素材は慎重に選ばねばならない。鉄をぶち込んで金へと変えることは出来るが、草花をぶち込んで金には変えられない、というのが良い例だ。因みに、水と魔力だけなら金も作れる。


「......とうっ」


 作りたい薬のアイディアが固まると適当な薬草や草木、庭で捕まえた虫を乾燥させたものをぶち込む。それからまたクルクルと掻き混ぜる。


「......私は魔女かな......」


 蜘蛛やら百足やらが浮かぶ釜を混ぜるローブを被った姿を傍から見れば、錬金術師と言うよりも魔女の方がピッタリだ。白色の魔女、白魔女か、と少女は呟く。


「......どうでもいいや」


 しかし今は製薬の方が大事。頭に浮かんだ言葉を消して、錬金釜に集中した。

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