きゅっわめ

「......そう言えば......どうやって、入った......?」


 この屋敷に侵入し、ここまでやって来る道中には、ハクが設置した罠が幾つもある筈だ。そのうちの一つに態々再起動までさせた、例の罠もある。その事を思い出したハクは訝しげな表情となり、レオガイアを睨め付ける。


「あぁ、あれ?昨日は意識が朦朧としてたから引っかかったけど、起きてたら引っかからないよ」


 と、笑いながら言ってのけた。


 その言葉にハクは頬を膨らませる。


「......解せない」

「ははは。コレでも優秀な斥候なんだよ?」

「......盗賊......」

「強盗より悪化してない......?」


 昨日まで忘却していたが、その罠達はハク自慢の魔道具だ。それらが無効化された事は酷く悔しかった。


 機嫌を悪くしたハク。その対面にレオガイアは笑いながら座った。


「はいコレ。お土産」

「......なに......?」


 レオガイアが手に持っていた紙箱を机に置いた。それをハクの前で開封する。


「......ケーキっ......!」


 箱から取り出されたのは、ふわふわなスポンジケーキに純白の生クリームをたっぷりと纏わせ、その上に真っ赤な大粒の苺を乗せたスイーツ。苺のショートケーキであった。


 それを目の当たりにしたハクは、先程までの不機嫌さは何処へやら。声を弾ませて、口からじゅるりと涎を垂れ落とした。


 ハクの機嫌が良くなった事にレオガイアは微笑んだ。


「あー、お皿とフォークはあるのかな?」

「......ん」


 ハクが指を鳴らすと、台所から2枚の皿と2本のフォークが飛んでくる。その途中で殺菌を済ませており、直ぐにでも使用可能な状態である。


「器用だね」

「......そう......?」


 筋力がないハクにとって、魔力による物質操作は日常生活に欠かせないものだった。こういった些細な事でも魔法の力で運んでしまう為、魔力操作は向上したが筋力は低下する一方。まぁ、仕方ないさとハクは諦めている。


 ついでに2人分のカップを用意し、そこに水を入れる。


「......強盗さんは......何を飲む......?」

「え......じゃあ、コーヒーを飲もうかな」

「......変質」


 ハクが呟くとカップに注がれた水が黒に変色し、湯気を立て始めた。それからハクも自身のカップに魔力を掛け、変質と呟き水を別の物へと変えた。


「......味は......保証しない」

「ははは......飲むの怖いなー」


 ハクが薬を作っていること知っているレオガイアにとって、ハクが用意したドリンクはそこそこに怖い。それも、自身の目の前で水を黒く染めた液体なんて、あまり飲む気になれなかった。


 コーヒー(仮)を飲むか悩むレオガイアを放っておき、ハクは自分用の皿にケーキを1つ移した。そして、フォークで掬い取って口に運ぶ。小さな口いっぱいにケーキを頬張った。


「......ふぁぁぁぁっ......!!」

「どう?」

「......んぅぅぅ......!!」

「それってどういう反応なのさ」


 ケーキを食べたハクの叫びにレオガイアは苦笑した。その反応から美味いのか不味いのか分からなかったのだ。


 しかし、隣町にあるケーキの有名店で買った1品。不味いわけではないのだろう。


 その通り、ハクは口に広がった幸せに耐えきれなかった。この8年間、いや城にいた時でも5歳になった頃から食べれなかったので9年間。これ程甘く優しく美味い物を食べていない。


「......おいじいぃ......」


 涙を流しながら、精一杯の言葉で呟いた。

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