じゅーごーわめ

 王家に生まれ、魔法適正を持っていないが為に軟禁された少女は錬金術という禁忌に触れた。襲い来る苦痛に次ぐ苦痛を耐え抜き、遂には錬金術の知識を獲得。そして錬金術師となった。


 その少女は今

 

「頭痛い......」


 頭痛に苛まれていた。


 徹夜明けバリのハイテンションで吠え声を上げた。そのせいで頭にガンガンと響いてしまったようだ。


 床で小さく蹲り、痛みが引くのをじっと待つ。その姿には錬金術師という威厳は感じられない。ただの幼い少女である。


「......栄養ドリンクでも作ろうかな」


 頭痛が無くなり起き上がったと思えば、ボソリと小さく呟いた。錬金術師となり回復薬の次に作るのがそれでいいのかと、そう突っ込む者は居なかった。


 少女はよいしょと立ち上がり、フラフラする体を動かし椅子に登る。そして、背もたれを掴んでその上に立つ。


 それから水瓶に手を向けた。


「水よ」


 その一言、一度の魔法行使で水瓶の八割近くを水で満たす。明らかに成長をしていたのだが、少女にはそれが分からなかった。


「変質」


 次の一言で水に薄い緑色が落とされた。先程作った回復薬よりも薄い緑色。目的の物が出来たな、と少し口角を緩ませた。


 次にキョロキョロと辺りを見渡し、床に転がる棒を発見する。目当ての棒を指差し、くいっとその指を動かした。すると、棒は宙にふわふわと浮き、少女の手に収まった。


 満足気に棒を見つめ、それからその棒で薄緑色の水の入った水瓶──敢えて言うのならば錬金釜を掻き回し始めた。



 魔力を注ぎながら混ぜること数分。薄緑色の水に変化かが起きる。シューッと音を立てながら、モクモクと白い煙が発生し始めた。少女の混ぜる速度も遅くなる。と言うのも、どうやら液体に粘性が出てきたようなのだ。


 更に混ぜること数分。ボフンッ、と錬金釜から大きな煙が吐き出された。それを初めから知っていたかのやうに、少女は何処から用意したのか布で口と鼻を覆って守っていた。


「かーんせい」


 煙の収まった錬金釜を少女は覗く。するとそこには1辺1cm程度の立方体が幾つも転がっていた。


「ふむ......栄養ドリンクは失敗か......。これは......栄養キューブ......かな」


 試しに1つ取り出して目の前に持ってきて観察する。色は濃い緑色。硬さは割と柔らかくてグミくらい。


 ぽいっ、と口に放り込む。ぐにぐにと噛み締め、ごくんっと飲み込んだ。


「......味は普通......硬さは良し......栄養補給出来たなら......完璧だな」


 少女はこれをこれからの食事にしようと考えていた。この栄養キューブとは、言わばサプリメント。そして少女の作り出したこの栄養キューブには、一食に必要な栄養素を全て詰め込んである。そう望んで作ったのだ。


 栄養さえ摂れればなんでも良い、という思考になってしまった。

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