第39話 自動演奏の魔術式
空を見上げて目にする機会が多いのは飛竜よりも鳥だろう。
羽を広げて悠々と空を飛ぶ姿は、とても美しい。
町の近くでよく見るのはかわいい小鳥が多いが、世界にはいろんな種類の鳥がいる。
中には飛ぶのが苦手で飛べなくなった鳥さえいるのだ。
◆◆◆
「竜」というのは特に大型の魔物に付けられた名前だ。
陸海空に住む超大型魔物を大雑把に「地竜」「海竜」「飛竜」と呼んでいるがその種類は様々である。
飛竜の中でも最大最強の生き物はドラゴン。知能が高く、攻撃力もあるがむやみに暴れたりはしない。ドラゴンの方から気が向けばテーマ―にテイムされることもあり、魔物の中でも別格の憧れの生き物と言っていいだろう。
ドラゴンの他にも、飛竜に分類される鳥系の大型魔物は数種類いる。最も希少な魔獣と言われる
いろんな種類がいる中で、普通ただ単に飛竜と言った場合は
ところが今、こちらに向かっているのはどう見てもこの翼竜だ。しかもその数は八体!
「飛竜か。数が多いのは厄介だな」
「狙いはここに集まった魔物や私達か、それともチュレヤの町でしょうか」
「クレイ、落とせねえの?」
「一体なら落とせると思いますが、さすがに八体は無理でしょうね」
連絡係を担っているらしい騎士が来た
「間違いなく飛竜だ。まだ遠いが10分もすればここまで来るだろう」
「国軍の魔術師は?」
「準備はしているがもう少し時間がかかる。それよりお前たちは飛竜と戦ったことはあるか?」
「一体だけなら倒したことがあるぜ」
「じゃあ出来ればここに残って戦ってくれ。国軍魔術師の準備ができるまでの時間稼ぎでいい。未経験者は即避難という指示が出てるんだ」
それだけ言って騎士は次の冒険者たちの所へ行った。外壁の上では投石していた兵士たちの半数以上が弓を準備し始めている。一方冒険者たちは今まさに地上の魔物と戦っている最中だ。そんなに簡単に離脱もできないし、飛竜に対応することも難しい。
「なあクレイ、どうする?」
「そうですね……。例えば、飛竜を叩き落せばユーリケ一人でも飛竜を倒せるでしょうか?」
「一人じゃ、無理だろうよ」
「じゃあ、仲間を増やしますか」
「は?」
「あそこでデカい
「人使い荒れえなあ」
一番近くで戦っている冒険者たちは四人組だが、フェンリルに苦戦しているように見える。そこに駆け寄ってユーリケが一撃入れた。私も風の魔術を飛ばしフェンリルの動きを縛る。ユーリケの乱入に動揺していた冒険者たちが慌ててフェンリルに向かって行った。
「じゃあ下は頼みますよ。私が上から飛竜を落としますから」
「おうよ。気を付けろよなー」
腰のホルダーから魔術書を取り出して左手の短剣と持ち替える。
さて、うまく一体だけ落とすことができるか。そして残る七体から逃げ切れるのか。
飛竜との空の鬼ごっこだ。
◆◆◆
ところで諸君はオウムという鳥をご存じだろうか。
はるか南の国にいる鳥で、わが国では滅多にみられない。まれに見世物小屋や貴族のお屋敷に飼われている事もあるらしいが、私はまだ見たことがない。
さてこのオウムという鳥にはとても面白い習性がある。なんと他の鳥の鳴き声の真似ができる。そして人に飼われたオウムは人の喋る言葉を真似することがあるという。
そんな話を聞いて思いついたのが、人の言葉を真似する魔術式だ。
ただこの魔術式は運用に問題がありそうということで、実用化には至らなかった。
するとその話を聞いた友人のステラ・ドレンシーが私にアドバイスをくれた。
人の言葉ではなく音楽を真似してみてはどうかと。
あまり長い音楽は無理だった。けれど試行錯誤の結果、短い音楽であれば真似て繰り返し演奏できる魔術式を考案した。
そしてこの国の人々によく知られている曲をいくつか、魔術式に封じ込めることができたのだ。
そのうちの一曲をこのページに載せている。曲名は「ああ、乙女は魔の森に」
美しくも物悲しい名曲だ。
曲を聴くのはそっと魔力を流すとよい。一度魔力を流すたびに10回、サビの部分が繰り返し演奏される。途中で演奏を止めるにはこの魔術書を閉じればいい。
一回に必要なクレジットはたったの5Gである。
この魔術式ではいつも同じ曲しか聞けないが、チュレヤの町のドレンシー魔道具店では他にも名曲を数多く魔術式に閉じ込めて売っている。興味のある方はぜひドレンシー魔道具店まで足を延ばしてほしい。
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