第22話 ミニチュアゴーレム操作魔術
土属性の魔術に秀でている人は開拓に向いているのではないかと思われるだろう。
確かに土を耕したり、逆に固めて建物にしたりする魔術はある。だが実際に土を耕そうと思うと、それに必要な魔力は膨大でとてもではないが広い面積を開墾することはできない。
鍬を持って根気よく耕す方が、結局は早いのだ。
◆◆◆
エヴァが消えた瞬間を、残った三人の誰も見ていなかった。
「部屋の外に行ったとか」
「エヴァが私に黙って、勝手に出るはずないっ」
冒険者ギルドから貰った資料には、行方不明者についての報告も載っていた。エヴァと同じようにいつの間にか消えた者もいれば、目の前で忽然と消えたという例もある。
「この部屋の中に手がかりがあるはずです。探しましょう」
足元に描かれているこの複雑な模様を読み解けばきっと。だが今、そんな時間が残されているのか。
「私には魔術の難しいことは分かんない。物理的な仕掛けがないか探してみるっ」
「俺も俺の方法で探そう。ちょっと部屋の外に出るから、お前らは消えるなよ」
「分かりました」
それぞれができることを精いっぱいやっている。そして時間をかけて私はこの大掛かりな魔術式の中心を見付けた。
中心には大抵その魔術式の核となる文字が刻まれている。分からない文字も多いが、知っているものを拾いながら繋げていく。魔力……人……黒……意味のなさそうな言葉もあれば、よく見たことのある並びもある。
「魔力を流す。大きい、小さい、人が近く。黒い石」
駄目だ。意味のある魔術式にするには分らない文字が多すぎる。
けど、この一文は……。
「何もない場所……空気、人と同じ。移動……入れ替え、同じ位置、上下」
入れ替える。人と空気を。エヴァの消えた状況を考えれば、ほぼ間違いなく転移の魔術式だろう。ここに魔力を流したら転移するのか。いや、エヴァがここで意味もなく地面に魔力を流したとは思えない。
けれど魔術式と言えば魔力を流すのが普通だ。
私が試してみるか?
エヴァのところに行けるかもしれない。しかし私まで行方不明になってしまったらユーリケたちが心配するな。
「クレイ、ちょっと外に来れるか?」
何かを見つけたらしいユーリケが呼びに来た。
行こうと思ったが、ふと考え直してサーラに声を掛けた。一緒に広間からでて通路をしばらく歩くと、ユーリケは何の変わったところもない場所で立ち止まる。
「ここの床がちょっと他と違うんだ」
「同じに見えるけど」
「音が違う。下に空洞があると思うぜ」
ユーリケの言う音の違いは分からないが、それを聞いて今度はサーラが俺たちを引っ張って広間に戻った。
「ここを見て、壁のところ。ここ、変じゃない?」
見てすぐに分かる違いではないが、縦に長く筋が入ったように見える。
地図で見比べれば、ちょうどユーリケが床下に空洞があると言った場所に近かった。
「扉を後で塞いだようにも見えますね」
「うん。さっき見つけて仕掛けかと思って探してみたけど、開きそうではないよ。魔術式はどうだった?」
「私は言えるほどの成果はありませんが、おそらくこの広間全体に広がるように書かれているのは転移の魔術式です」
「うっかり起動しちゃったのかな、エヴァ」
「ここで魔力を流してみるという手もありますが……」
そういいながらも私が迷っていると、ユーリケが、じゃあこうしようぜと言って前に出た。
「ここだな。確かに音が違う」
剣を逆手に構えて柄頭の部分でガンガン壁を打ちながら言った。
「ちょっとここに穴をあけてみようぜ。通路に出るだけかもしれねえがな」
思いっきり打ち付けた場所の壁が欠けて欠片が足元に落ちる。
「おう。行けそうだ。ちょっと離れてろよ」
「いえ、待ってください。穴をあけるなら私の方が早いでしょう」
土属性の魔術は土木建築の分野で使われることが多い。硬化させたり逆に石や土などの素材を脆くすることもできる。ただ魔力を目いっぱい流しても効果の範囲は大きくなく、壁を壊すときも破壊槌などを使った方が断然早くて効率が良い。
とはいえ、そこは使いようだ。元々が扉だったのなら、その境目を脆くするのは簡単だ。
魔術書を広げて使う魔術を選び、境目と思われる場所に魔力を流す。
あとはユーリケが壁を蹴り倒して完了だ。ぽっかり空いた穴は広間の外にある通路ではなく、三層目よりもさらに地下深くへと下る階段を露わにした。
◆◆◆
土属性の魔術の一つにゴーレムがある。土や石で作られた人形を動かす術だ。これは実は何もないところから生み出すことはほぼ無理である。
そもそも何もない普通の地面からいきなりゴーレムを作り出せるのであれば、戦術的にいかほど有利か、言わずとも分かるだろう。強力な土魔術師が数人いれば世界征服も夢ではない。が、そうはならない。
ゴーレムを動かすには、まずその形を人力で作っておく必要がある。簡単なのは土だろう。強度を増すために硬化の術をかける必要がある。石で作られたゴーレムは作ることさえできればその後は簡単かもしれない。
だから魔術というものは、使いどころが重要なのだ。
さて、戦いに使う人と同じくらい大きなゴーレムは動かすのも大変であり、上級魔術師に限られる。だがゴーレム自体がとても小さければ、もっと気軽に動かせる。
ここに書いた魔術式は、手のひらと同じくらいの大きさのゴーレムを前後左右に動かすものだ。はっきりと視認できる範囲でしか動かせないが、面白い使い方もある。例えばゴーレムにお茶を持たせて客のところに運ぶなど。私が友人に試したところ非常に楽しんでもらった。
これは一回に50Gのクレジットとそれなりに多めの魔力を必要とする。あまり実用的ではないかもしれないが、もし素晴らしい使い方を思いついたらぜひ私にも教えて欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます