第43話 おわりに
長々と書き連ねた魔術書も、これが最後のページになる。
まずはここまで読んでくださった諸君に、深く感謝申し上げる。
この魔術書を読んで、諸君はどう思っただろうか。
「こんな簡単なことなら自分でも考えつく」あるいは、「こんなことは魔術など使わなくても事足りる」もしかしたらそんな感想もあるかもしれない。
けれどほんの小さな工夫でできたこのささやかな魔術が、使い方によっては日常を豊かに彩ることもあるだろう。この中でほんの一つか二つでも、使ってみようと思う魔術があったならば幸いである。
この本を著したのには、三つの理由があった。一つは自分の考えた新しい魔術を誰かに役立ててほしいという事。二つ目は単純に私の活動資金を得ること。そして三つ目の理由こそが最も大切な理由である。
私は、新しい魔術を考えると言っても難しいことではなく、とても簡単な思い付きで生まれるということを伝えたい。
魔術が円熟期に入ったと言われて久しい昨今だが、そんな中でも新しいことを考えるのは楽しいと私は思う。この楽しさを是非諸君にも味わってほしい。そして多くの魔術師の皆が工夫することによって、この世界がもっともっと暮らしやすい場所になって欲しい。
そんな思いを持っている。
そのために一番大切なことは何か?
それは経験だと考える。
はじめに書いた通り、私には前世の記憶がある。異世界ニホンとこの世界での暮らし。その二つの世界の違いは私に多くの不自由と疑問を与えた。
不自由や疑問は、人を動かす原動力たり得る。
異世界になど簡単に行けるわけがない?
もちろんだ。
けれど経験を得る方法はいくらでもある。例えば旅をすること、本を読むこと、人の話を聞くこと。数え上げればきりがない。
様々な経験から諸君は新しい疑問を見付けることができるだろう。
そして私もまだまだ、新しい経験を積みたいと考えている。
この魔術書を諸君が読み終わった頃、私はすでにこの国にはいないはずだ。
これを書き記している今、冒険者ギルドから新しい依頼が舞い込んできた。隣国の、そのまた更に向こうの国でこれまでに見たことがない新しい型のダンジョンが発見されたという。そのダンジョンの調査の仕事だ。
一年か二年か、もしかしたらそれ以上の長い仕事になるかもしれない。危険もあるだろう。だがそれ以上に未知の体験ができることに心が躍る。
いずれそのダンジョンのことを皆に報告できる日が来るだろう。
その日までさらば、諸君。
感謝を込めて。
―― 魔術師クレイドル・ハングマーサ ――
異世界に学ぶ新魔術~前世の記憶から発案した魔術式とエッセイ~ 安佐ゆう @you345
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