第42話 魔力の色を見る魔術
魔物の大発生については未だ謎が多い。
けれど謎は、人を成長させる栄養素の一つだ。肉や芋を食べて身体を作るように、人は謎を見付けて解くことで新しい知識を得る。
困難な経験もすべて糧にして、前へと進むがいい。
◆◆◆
魔物の大発生の後、チュレヤの南側の地は酷く荒れていた。街壁の外には農地があり被害も大きかったが、人的被害が少なかったのは不幸中の幸いだ。
チュレヤの町の中が無事だったのも良かった。国としては魔石や魔物の素材で潤ったこともあり、被害を受けた者たちにはある程度満足できる補償がされるだろう。
私は気を失ってから丸一日眠り続けていたらしい。目が覚めたのは翌日の昼で、定宿のベッドの上だった。
「やっと起きたわね。待ちくたびれたわ」
「ん……ステラ? なぜここに?」
私の顔を覗き込んでいるのは、魔道具屋のステラ・ドレンシーだった。
「ユーリケが呼びに来たのよ。彼も忙しいらしくってね、代わりにクレイを見張ってろって」
「ユーリケ……あっ、魔物は、飛竜はどうなりました?」
「大丈夫。夜中までに騒ぎは収まったわ。今朝からはもう街門も普通に開いて人の行き来も始まっているのよ」
ステラの言葉にホッとして、持ち上げた上半身をもう一度ベッドの中に沈めた。
「情けないわね。天才魔術師も魔力切れには勝てないの?」
「魔力切れは久しぶりですが、記憶にあるよりも堪えますね」
「ふうん……。魔力が減ってきたら補充するような魔道具は作れないの?」
「国立図書館の資料で見たことはあるんですが、かなり大きな装置で高価ですし、寝れば治るものですからねえ。でも、そう……。魔石から魔力を……身体に取り込めれば……。ふむ……」
人は空気中の魔力を自然に身体に取り込んでいる。
魔石は魔力の塊であり小さくても人の持つ魔力よりは多い。だったらそれからも取り込めるだろうと思うが、それがなかなか上手くいかない。その理由は魔力の質の違いだ。この国の魔術学院では、魔力の属性を五つに分類して教える。同じ属性の魔力なら取り込めそうだが、微妙な違いがあるようで身体が受け入れようとしない。
けれど治癒系の魔術や身体強化などの補助系の魔術であれば相手の身体に魔力を送り込むことができる。つまり魔術によって魔力の質を変えているのだろう。
身体の中にただ単に魔力を送り込むなど、必要がなかったので今まで考えたこともないが……。
「ふふふ。何か思いついたみたいね」
そうか。治癒魔術を応用すると……。
「ここに食事を置いとくわ。正気に戻ったらちゃんと食べるのよ。あと、ノートとペンもここに」
ふとテーブルの上を見ると、ノートとペンがある。
「ちょうどよかった、忘れないようにメモしとこう」
「ご飯は目に入らなくても、それは見えるのねえ」
大切なのは魔力の変換だ。
どのように変換するのか。治癒魔術はどうだったか。身体魔術は?
「後でユーリケが迎えに来るから、それまでにがんばってメモって。じゃあ、またね」
頭の中に浮かんだことを忘れないうちにと必死にメモしていると、ノートの端に綺麗な文字が書かれているのに気付いた。
ステラか。
顔を上げたが、部屋の中にはもう誰もいなかった。
悪いことをしたな。
『素敵な魔道具を考案したら、ぜひドレンシー魔道具店へ』
もちろんだ。
急いで作って持っていこう。それならば、やることは決まっている。まずは実験、そして魔術式の検証だ。
ユーリケが私を呼びに来るまでに、どこまでできるか……。
◆◆◆
人と魔力の関りは切っても切れない。
この魔術書で最後に紹介するのは、魔力の色を見る魔術式だ。
魔物が様々な色の魔石を体内に持っているように、人もまた自分なりの色の魔力を持っている。
ほとんどの魔道具は誰にでも問題なく使えるし、日常生活に自分の魔力の色を知る必要はない。
けれど、知りたいではないか。自分がどんな色の魔力を持っているのか。そしてその魔力にどんな特徴があるのか。
五属性の赤・黄・緑・青・紫だけではない。無属性の白と黒を合わせた七色よりも、もっともっと個性豊かな色の魔力がこの世界には溢れている。
下の魔術式にそっと魔力を流してみよう。諸君の身体に流れる魔力がどんな色であっても、それはかけがえのないたった一つの君の色だ。
この魔術式に関してはクレジットは必要ない。
私から、この本を手に取ってくれた諸君へのささやかなお礼である。
ありがとう!
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