第41話 魔力量測定の魔術式
魔力はどこにでも存在する。
人の体の中にも血が巡るように魔力もまた巡っている。魔物と違い各人が保有する魔力は多くはないが、使ってもまた大気中から補給されるので簡単に無くなることはない。ただし身体に取り込むには時間がかかる。なので大抵の人は朝起きたときに最も多くの魔力を体内に保有し、夜寝る前には体内の魔力が少なくなっている。
大きな魔術を使うときには体内に保有する魔力だけでは足りないので、魔石をはめ込んだ魔道具で魔力を補う。
◆◆◆
地面に落ちた飛竜は荒々しく頭を振っては、風の魔法であたりを砂嵐にしていた。けれど地に落ちてしまえば冒険者たちの方が有利だ。数人で囲んで時間をかけて力を削ぐ。飛竜の放つ砂嵐で他の魔物達の動きが阻害されたのも逆によかった。
私は残った飛竜たちが町に近付き過ぎないように、攻撃をしては逃げることを繰り返す。そして三体目の飛竜を地上に落としたあと、ようやくチュレヤに動きがあった。
「クレイドルー、もういいぞー」
はるか下の地表から、ヨンさんの声が聞こえる。風属性の魔術で声を送ってきたのだ。
ちらりと地上を見れば、国軍の魔術師たちが円陣を作って飛竜を狙っている。どうやらその陣の付近に飛竜をおびき寄せればいいらしい。急降下と急上昇を繰り返して飛竜の気を引いてから、陣の中央で一気に地表付近まで降りた。
私の後を追ってきた飛竜に向かって地表から放たれたのは、天へと向かう龍のごとき雷光だった。
飛竜に絡まる雷光を見ながら、私は浮揚の魔術をクッションにして地面に転がるように落ちた。
「おい大丈夫か、空飛ぶ魔術師さん」
国軍魔術師を守るように立っていた兵士の一人が、声を掛けてくれた。
「ええ、ちょっと……疲れましたが問題ありません」
「そうか。もう魔物の目途もついたから安全なところに避難しておけよ」
「そうします。魔力ももう限界です……の……で」
いったん立ち上がったが、大丈夫だと思ったとたんに力が抜けた。目の前が真っ暗になり、地面に膝をついて……それ以降の記憶はない。
本当に久しぶりの、魔力切れだった。
それから後のことは私の体験ではなく、いろんな人から聞いた話になる。魔力切れで気を失った私は、冒険者によってチュレヤの町に運び込まれた。その時はもう、魔物の数もかなり減っていたので門を開けてもらえたのだ。
雷光に焼かれて残った五体の飛竜は全て地に落ちた。だが止めを刺すには至らず、飛竜の魔法で地上には嵐のような風が吹き荒れた。
残っていた魔物も大型で強力な種が多く、夜中になってようやくほとんどの魔物を倒すことができた。
気がつかないくらい小型の魔物とわずかばかりの大型魔物に逃げられたが、すでに脅威ではないだろう。
魔石を取ったり死骸を片付けたりするのは国軍の兵士たちが頑張っていた。そうして集まった魔石や素材から、後日我々冒険者に報酬が払われることになる。
海辺のレクセルの町付近で始まった魔物の増加の予兆とチュレヤの大量発生は、同じ原因による一つの大発生だったのだろうとその後の研究で発表された。このような大発生については今もなお分からないことが多く、今後も研究が続けられる。
そしてこの戦いに参加した多くの冒険者たちもまた、経験をもとに戦い方を工夫していくのだと思う。
◆◆◆
一日に使える魔力量は人によって違うが、それぞれ経験によってどのくらい使えるかは分かっているだろう。
子供の頃にはその加減が分からず、よく魔力切れの症状がでる。
体内魔力が減り過ぎると、倦怠感やめまいがおこる。さらに魔力を使い続ければ気を失う。といっても子供の場合そこまで使うことはほぼないので、心配しなくてもいい。
大人になれば普通は魔力切れになることはない。けれど魔術師は普通の人よりも魔力を多く使うため、失神するまで魔力を使った経験も多いはずだ。
減り過ぎた魔力を早く補う方法はいくつかあるが、まずは寝るのがいい。他に簡単にできて有効な方法に、深呼吸がある。
ところでどのくらい魔力を使ったのか、またどのくらい回復したのかを知りたいときはないだろうか。私は常に知りたいと思っていた。そして考えたのがこの魔術式だ。魔力は流さずにゆっくりと十数える間、魔術式に手を押し当ててほしい。
人の手からは常に微量の魔力が漏れ出している。その量から身体にある魔力の総量を推測することができる。手を離すと魔術式の中心の枠の中に数字が表れる。それが魔力量だ。
魔力量を表す単位がないので、仮にMとする。朝測ると少ない人でも100M、多い人は1000Mを超える魔力量だろう。これが10Mより下回ると倦怠感が出始める。時々測定していれば、だんだん自分の魔力の使用量が把握できるようになる。
一回測定するのにかかるクレジットは20Gである。
何度も魔力切れになる人は測定してみよう。
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