第18話 魔石キラキラ魔術
お土産を選ぶのは旅の楽しみの一つだろう。
けれど案外難しいと思うのは、きっと私だけではないはずだ。
浮かれた気分のままに店先にある奇妙な木彫りの人形を買って帰って、渡すときに困惑されるのもまた旅の醍醐味なのかもしれない
◆◆◆
チュレヤの町には予定通り帰り着いた。
平気な顔で送り出した父親だったが実際はずいぶん心配していたらしく、店の前から我々のところまで走ってきた。まだとても遠かったのに。いったいいつから店の外で待っていたのか。
「ステラ!」
「お父さん、ただいまあ」
「お、おう。しっかり商談して来たのか?」
「もちろん! 重いから早く店に入ろうよー」
「そうか、そうか。お前らにも世話になったな」
「ははっ!さっさと依頼書にサインくれよ、おっさん」
「店に帰り着いてからだ、このばかもんが!」
チュレヤの町はこの国の首都である。中央の王城を取り囲むように貴族街があり、その外に庶民の町がある。
ドレンシー魔道具店のある通りはいわゆる職人街で、鍛冶屋や木工、アクセサリー、小物などを扱った店が軒を並べている。工房で作ってその場で売っているような店だ。
ドレンシー魔道具店もまた小さな店の奥には工房があり、二人の弟子が作業している。
「お嬢さん、おかえりー」
「ただいま!」
荷物を持ってステラと一緒に奥に行き、台の上にストレイディの殻を積み上げた。
「ほほう、これはなかなか良いストレイディだ」
父親はステラを見て目を細める。
弟子の一人が飲み物を持ってきてくれたので、我々もテーブルについて旅の報告をした。
野営でのハプニングを話したときには、一瞬その場の雰囲気が殺気立ったが、どうにか最後まで話し終える。
「ありがとよ」
「おっさん……」
「魔物に襲われてしまいましたが」
「そりゃあ旅には付き物の危険ってやつだ。俺だって何度も魔物には襲われたさ」
「父さん……」
「ステラが無事に帰って来てくれた。お前らのおかげだ」
ステラの商談の結果は上々だったらしく、その後は和やかに観光の話で盛り上がった。お土産は弟子の二人にも手渡され、喜んだ弟子の一人がステラに抱き着いて父親に引き剥がされたりしたのもいい余興だったと思う。
こうして我々は冒険者ギルドの依頼書にサインを貰い、無事護衛の仕事を完了することができた。
◆◆◆
ステラはずいぶん長い時間悩んでお土産を選んでいた。
父親にはエマ湖の淡水ストレイディの干物だ。これは酒のつまみにいい。
母親にはストレイディから取れた魔石で作った髪留めで、自分のお土産も母親とお揃いにしている。
弟子二人には毛皮を縫い合わせたボールのようなものに目玉が付いた奇妙なマスコットだった。ひとつは白くて「白浜くん」、もう一つは赤くて「赤浜くん」という名前が付いていた。どう見ても魔物にしか見えないが、二人は気に入ったようで何よりだ。
さて、魔物からとれる魔力の結晶を魔石という。ちゃんと生成された魔石は綺麗な球で、その色に応じた属性の魔力が凝縮されている。エマ湖の淡水ストレイディは透き通った淡い黄色の魔石だ。
色の薄い魔石はあまり強い力を持っていないと言われるが、この魔石を使って美容に非常に効果のある化粧品を作り出した魔術師がいる。それ以来エマ湖の淡水ストレイディと言えば美容のお守りと言われている。
この魔石だが、綺麗な球にならなかったものは価値が低いため、削ったり磨いたりと加工して、アクセサリーとして土産物屋で売られる。女性に非常に人気のある品なので、男性諸君は記憶に留めておくと良い。
この魔石をさらに魅力的に見せるために、一つの魔術式を紹介しよう。
このページの最後に書かれた魔術式は、アクセサリー用に加工された魔石に特化したものである。この魔術式に触れるように魔石を置き魔力を流すと、一定時間キラキラと魔石が輝く。日の光を自然に反射したものとは違い、分かりやすい輝きを生む。魔石の種類によって輝き方の効果が違うのも面白い。
魔石もアクセサリーに加工されたものは魔術には使わないが、こうして簡易な魔術式に反応するくらいのことはできる。
特別な日の装いに、いかがだろうか。魔術式の発動一回につき、たったの10クレジットである。持続時間は魔石の大きさによるが、一般的によくあるアクセサリーのサイズで1~3時間程度のはずだ。
ただし気を付けてほしい。魔石というものは置いておくだけでも徐々に色を失う。あまりに頻繁に輝かせていると、早く色があせるのでそれを忘れないように。
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