第19話 アイスクリーム魔術

 冒険者はたいてい、気の合う者同士が組んで一緒に仕事をする。その人数は二人から四人程度である。

 強い魔物に立ち向かうときは、人数が多ければ多いほど有利だろう。ところが仕事全般について人数が多い方がいいのかと言えば、一概にそうだとは言えない。

 人数が多ければそれだけ依頼料の分け前が減るし、メンバー同士のいざこざも増える。また、ダンジョンには狭い場所が多く、大人数で戦う利点を生かせないからだ。


 ◆◆◆


 少し不思議な話を聞いてほしい。これは私が冒険者になって三年目の頃に体験したことだ。


 諸君はダンジョンに入ったことがあるだろうか。ダンジョンとは魔物の多く出る地下迷宮である。冒険者にはおなじみの稼ぎ場所であり、おそらくギルドに登録している者は皆、一度はダンジョンに入ったことがあるだろう。


 ダンジョンに入る目的は主に三つある。一つは攻略だ。ダンジョンの奥深くには核と呼ばれる大きな魔石がある。この魔石がダンジョンの魔物たちを生み出しているとも言われ、核の無くなったダンジョンは魔物の数が激減する。どんなに小さいダンジョンでも、核を手に入れることができたなら一生食うに困らない金額で売れる。

 二つ目は素材狙い。ダンジョンには魔物が多い。ということは、沢山の魔石や肉や皮、角などの素材を手に入れられる。たとえ攻略されて核がなくても、平地より易々と獲物に出会えるのがダンジョンだ。

 そして三つめは調査依頼である。ダンジョンで何か変わったことがあると、近くにある冒険者ギルドから調査依頼が出されることがある。


 私とユーリケは、もうずいぶん前に攻略されて核がないダンジョンの調査依頼を受けた。古代の宗教施設の名残りらしい、小さなダンジョンだ。地上部分はもうとうに朽ちたけれど、地下に三層の迷宮が残っている。あちらこちらに剥げ落ちた壁画や壊れた女神像が転がる。わずかに残されたいくつかの石像の姿がまるで何かに祈っているかのようにみえるので、そこは祈りの地と呼ばれるようになった。

 チュレヤの南、険しい山の中腹にある。


「うへえ、荒れてるなあ」

「お宝探しの冒険者や盗賊が荒らしていきますから」

「それにしても、女神像を叩き割るなんざ、俺はしたくねえな」

「それはそうですね」


 核は無いものの、最近徐々に魔物が増えていると冒険者から報告が上がった。さらにここ一か月の間に五人の冒険者が行方不明になっている。

 ダンジョンで死んだ者はそのままにしておくと、翌日には死体がなくなっている。ダンジョンに飲み込まれるという説もあるが、核の無いダンジョンでもやはり死体は消える。なので行方不明自体はそんなに珍しいことではない。だがソロではなくパーティーで潜っているうちの一人だけが忽然と姿を消す。しかも同じような消え方をしたのが五人にも上ると、ギルドも動かざるを得ない。


「そう? でも女神像の裏側なんて、お宝が隠されていそうじゃない?」


 妖艶に微笑みながら壊された女神像のかけらを拾い上げたのはエヴァ。美人だがよく見れば筋肉質な剣士だ。


「エヴァったら、そんなの拾うのやめなさいよっ。すぐにそうやって要らないものを拾うんだから」


 エヴァの手からかけらを取り上げて元の位置に戻したのはサーラ。小柄で猫耳と長い尻尾を持つ獣人族の暗器使い。

 今回はこの女性二人組のパーティーと一緒に調査することになった。


 ◆◆◆


 他のパーティーと一緒に仕事を受けることは稀にあるが、全く気の合わない人と組むことはほぼない。

 ギルドのほうでも冒険者同士の相性はある程度把握しているという噂もある。声を掛けられた時点で断ることもできるが、滅多にそんなことはないので多分そうなのだろう。


 ところで組むのが異性のパーティーだったりすると、やはり多少はギクシャクするものだ。どうにか自然に仲良くなりたいと思うなら、例えばアイスクリームを差し入れするのはどうだろうか。アイスクリームと言えば貴族界でも喜ばれる高級なデザートだが、材料が手に入れやすく魔術師にとっては作りやすいものだ。

 花や宝飾品は勘違いをされると困るが、食べ物の差し入れというのは気楽に受け取ってもらえるのも良い。


 これは水の上級である氷の魔術と風の魔術を複雑に組み合わせたものだ。器の中に材料となる乳、糖、卵を全部入れて、この魔術式の上に乗せ、そっと魔力を通せばよい。少し時間と魔力はかかるが、絶品のデザートができる。材料の配合は各々で工夫されるといいだろう。

 必要なクレジットは一回につき10Gと大変お得になっているが、一回に作れる分量は二人分までなので大人数に振舞うのは難しいかもしれない。

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