第37話 数を数える魔術

 上空から見下ろすと、無数の魔物がひしめいているのが見えた。

 とても数えられそうにない。

 特に小型の魔物はイナゴの大群を思わせる。

 たとえ一匹一匹は無力と言えども、こんなに集まっては脅威になるだろう。


 ◆◆◆


 夜空に高く舞い上がり、バランスを取りながら下を見た。

 あちらこちらで小さな光が光っては消える、あれは火属性の魔術だろう。

 ヨンさんの放つライトとは別に、何か所かは明かりが灯っている。けれど全体を照らすには少し足りない。


闇を照らす炎ライト


 上空からさらに高い位置に打ち上げられたライトは、淡く広く照らす。できるだけ強い光をイメージしながら、さらにいくつも明かりを灯した。


 夕暮れ時くらいの薄明かりが地上の様子を見せてくれた。

 魔物のほとんどは、チュレヤの南に集まっている。それを国軍の兵士が取り囲むようにして、外縁で魔物との戦闘が続いていた。チュレヤの街壁では、町に入ろうとする魔物を上から必死に攻撃を当てて落としているのが見える。まだ町の中では混乱は起きていない。


 普段はこんなにも町に向かおうとはしない魔物達だが、今は集団の外縁で戦闘している魔物以外は全部チュレヤを目指しているように見える。

 前世で、動物や昆虫が異常な数の集団になった時に、普段の習性とは違う謎の大移動をするのを見たことがある。この魔物たちの行動はなんとなくそれに似ている気がした。

 飛翔の魔術は多めに魔力を使うので、全景を確認してから一旦下に降りた。


「魔術師って飛べるのか?」


 騎士の一人が目を丸くして聞いてきた。


「飛べない魔術師の方が多いんじゃないですか、多分?」

「だよなあ。こんなところで明かり係をやってもらうの、もったいない気がするよ」

「けど、クレイドルだからな。ははは」


 ヨンさんが笑って俺を指さす。

 失礼な!


「こいつ、すっげえこまけぇ魔術が得意なんだぜ。料理を旨くする魔術とか、暑季に涼しく過ごす魔術とか。攻撃魔術よりライトの魔術の方がクレイドルらしいって」

「ヨンさん! 私もちゃんと攻撃魔術だってできるんですよ!!」

「あははは」


 分かってるって!とか言いながら、背中をバシバシ叩いてきた。ヨンさん、こんなに陽気な人だっただろうか。魔物をたくさん見すぎて、おかしくなったのかもしれない。

 それから夜が明けるまで時々明かりを打ち上げながら、雑談をしたり上から見たこの辺りの様子を話したりしてのんびり過ごした。

 私とヨンさんは魔術師ということで魔物と接近戦にならないように気を付けてくれているようだった。


 そして夜が明けた。

 魔物の大群が遠くで土埃を上げている。いや、土埃ではなく小さな虫型の魔物が飛んでいるのだ。その周りを騎士に守られた魔術師たちが等間隔で取り囲んでいた。

 私とヨンさんはさらに後方へと下がる。ここから先は国軍所属の魔術師たちの腕の見せ所だ。

 彼らの手に持った杖が、朝日を浴びて赤く輝く。

 空気が揺らぎ、魔物たちが激しく叫び暴れる。そして巨大な火柱が魔物の大群の中心に立ち上がった。


 ◆◆◆


 その時の魔物の大発生に何体の魔物がいたのかは分からない。今でもいろんな場所で論争されている。

 私が見たところ、小さいものも含めれば数万はいたような気がするが、その時は数える余裕などなかった。

 そこで、大量のものの大まかな数を素早く数える魔術式を考えてみた。

 下に書かれた魔術式は、それを小規模にしたものだ。器の中にある小さなものの個数を自動で大雑把に数える。例えば豆やゴマの個数など。

 一回に使う魔力量はほんの僅かで、クレジットもたったの5Gだ。


 けれど……。


 考えては見たものの、はたしてそれが何に使えるのかは全く思いつかない。

 とりあえずここにその魔術式を挙げてみようと思う。諸君の中でよい利用方法を思いついた人がいれば、ぜひ私に教えてほしい。

 魔術式の利用法だけでなく、私宛のファンレターはいつでも大歓迎で受け付けている。宛先は魔術師ギルドの住所の「魔術師クレイドル・ハングマーサ」である。少し時間はかかるが、いずれ私の手元に確実に届く。

 是非お気軽にファンレターを送ってくれたまえ。

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