第24話 お守りの魔術
「石に魅入られる」という言葉がある。
宝石や魔石をこよなく愛する人を指している。
ごくごくありふれた魔石であっても、じっと見つめていると、その小さな塊の中にまるで宇宙が詰まっているように感じられる。
ああ。私もすでに石に魅入られてしまっているのだ。
◆◆◆
魔石について話そう。
町中で暮らしていると、魔物と獣の区別はつきにくいかもしれない。
おぼろげな印象では獣に比べてより大きなもの、より凶暴なものが魔物だと思われがちだ。ただ実際はそうとも限らない。
魔物とその他の生き物を区別する唯一の特徴は、体内に魔石を持っているかどうかである。
魔石とは魔力を凝縮した結晶であり、それを体内に持つ魔物は魔法を使うことができる。魔物の使う魔法は本能のようなものらしく、ほとんどの魔物は一つか二つの魔法しか使えない。
魔物が体内に持つ魔石は属性に応じた色をしている。例えば火属性の魔法を使う魔物ならば赤い魔石を持つ。
魔石の大きさはいくつかの例外を除き、魔物の体の大きさにほぼ比例する。一番小さな魔物はネズミなど小動物のアンデッドで、その魔石の大きさは1セチメルの半分よりもまだ小さい。そこまで小さい魔石は魔道具には向かないので、集める手間に見合った収入にならない。だから多くの冒険者は1セチメルよりも小さい魔石は拾わない。たまにエヴァのような物好きな人が拾い集めてきた小さな魔石は、お守りと呼ばれる魔道具に使われることが多い。
逆に大きな魔石を持っていると言えば、やはり竜の仲間だろう。
地竜は巨大な身体にふさわしい大きな魔石を持っているので、しばしば乱獲されてきた。だが魔物にしては温厚な性格はテイムに向いているため、多くの国で保護され、テイマーによって飼育されている。テイムされた地竜は物や人を運ぶ手段の一つであり、殺して得られる魔石よりも価値を持つ。飛竜の仲間たちも同じように、他の魔物とは別格の扱いをされる。
美しいことで名高い魔石といえば、金色熊が挙げられる。獣の熊と比べると、薄い黄色がかった毛皮も美しく、上手に狩れば高値で取引される。金色熊は土属性の魔法を使い地面を隆起させるので、足場が悪くなり非常に戦いにくい。うっかり転ぶと鋭い爪が付いた大きな前足で殴打される。
そんな金色熊の魔石は、土属性の黄色の魔石の中でも濃いはっきりした色合いで、よく見ればその中にはキラキラと輝くラメのようなものが入っている。体の大きさに似合わず少し小さめの直径5セチメルほどの魔石だ。けれどその大きさがアクセサリーにちょうど良いことから、土属性の守りのペンダントや髪飾りなどに使われることが多い。
魔道具に使うととても高性能の土属性の杖ができるので、売るか自分用の魔道具を作るかは悩ましい。もし好きな女性にプレゼントすれば、きっと喜ばれるだろう。
もう一つ、アルギュロスと呼ばれる銀色の鱗を持った蛇の魔物を紹介したい。
魔物と言っても普通の蛇と比べてさほど大きくはない。大きい個体でもせいぜい3メル程度だろうか。滅多に見ることのできない珍しい魔物だ。
さほど強くはないが、アルギュロスは空を飛ぶことができる。そのため見つけても逃げられることが多い。
その魔石は無属性だが、とても珍しいことに乳白色の石の表面が光の加減で虹色に見える。
このアルギュロスの魔石は、いまだに使い方が分かっていない特殊な石でもある。空を飛ぶ魔物なので似たような効果の魔道具が期待できるのだが、いまだにこの石に見合った魔術式は開発されていないのが現状だ。
にもかかわらず、希少性とその美しさから非常に高値で取引される。
私もたった一度だけアルギュロスを倒したことがある。その時の魔石は今も手元にある。いつかその石にふさわしい魔術式を開発したいのだ。
◆◆◆
さて、1セチメルよりも小さな魔石はお守りに使われると上に書いた。その石の種類やお守り袋に描かれた魔術式によって、ささやかだが様々な効果がある。
売っている魔道具屋で選ぶのも楽しいものだが、自分で作ってみるのもまた面白い。一つ、簡単に作れるお守り袋の魔術式を紹介しよう。
これはごく身近で捕まえることができる
捕まえようとすると水を吐いてから逃げる。すばしこい魔物だが慣れれば子供でも簡単に捕まえられるだろう。
アグリダの魔石を使って作るのは、ごく小さい範囲の浄化のお守りだ。例えば食べこぼしで大切な服に染みが付きそうになった時、アグリダのお守りを染みに当てればその場で浄化してくれる。魔石が小さいために一回しか使えないが、一張羅を着て出かける時には持っておく価値があるだろう。
一つ作るごとに5Gのクレジットがかかる。素材は自分で集めてこれるものばかりなので、手作りの趣味としても楽しんでみてはいかがだろうか。
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