第35話 誘拐される系TSっ娘





 真治が逮捕され、色々と誤解を受けたボクは家族と会うことになってしまった。



「あー! アンタ、あのときの!」

「誰ですかあなたは?」

「知り合い?」

「はい!」「いいえ」

「……どっち?」



 まず最初に声を上げたのは姉の千夏ちなつ。この前の痴漢事件の被害者。本来のボクからは距離を置いていたから家族といえど、あまり関わりがない。でも、そんなボクでも一つだけ言えることがある。


 あの贅肉は処分すべきである――――と。



「ではご主人様が待ってますので、これで」

「ちょっと待ちなさい」



 今は贅肉に構っている暇もないので颯爽と両親の視界から逃げようとするが、呼び止められた。



「……真治くんがどうなっても良いの?」

「はい?」

「わからない? 警察は私たちの手元にあるの。私たちがアナタを千尋と言えばアナタは千尋だし、千尋じゃないと言えば千尋ではないの。ヘタな芝居はやめなさい。アナタはこのまま私たちの元へ来て貰うわ」

「…………」



 あまりに意味不明すぎて言葉を失った。警察がアンタらの手下になんてなるわけがない。そうでしょ? 女性警官さん?



「……あれぇ?」



 女性警官がボクから視線を逸らして斜め下を向いた。

 この家族、いつかこういうことをやらかすとは思っていたけど、まさか今このタイミングで仕掛けてくるなんて……


 けど、何か引っ掛かる。ボクが真治の家に行くことぐらい母さんも父さんも簡単に予測ができたはずだ。でもこの家族はボクに欠片も興味を持たなかった。だから探そうとするわけがない。

 仮にボクを探していたとするなら四月の段階でこうなっていてもおかしくなかったはずだ。


 それなのに、どうして今さらこんな事態になったんだ? 原因は何か他にあるはずだ。


 この家族はボクを真治から遠ざけようとしてる。


 つまり、その裏で動いているのはボクを真治から突き放すことで得をする人物……


 ボクはたった1人だけ、該当する人物が思い付いた。



「チッ、あの美少女……!」



 腹立たしい。美少女め、愛菜を利用してボクの正体を突き止めたな。どんだけやってくるのさ。ストーカーなの? だとしたら残念だけどボクは真治にしか興味ないからそっちに振り向くことは一生ないよ。



「真治くん、有罪になっちゃイヤだよね? ならどうするべきか、わかるでしょ?」



 なるほどね、ボクがそっちに行くと真治が解放される。その際、ボクは真治から遠ざけられる。その隙を狙って美少女が好きなだけアタックするっていうわけね……


 なら、ボクがすることって1つだけじゃない?



「拒否する」

「真治くんが有罪になっても良いの? あなたのせいで何もしてない真治くんが犯罪者になるのよ?」

「いいよ、別に。真治がこうなったのがボクの責任だっていうならボクはその責任をとって真治を養う」



 自分の両親にどや顔をかまして部屋から出ようとする。



「話にならないわ、コイツも牢屋に放り込んで」

「……はい」



 女性警官に両手を掴まれてそのまま何処かへと連れ去られた。

 え? えぇー? うそでしょ……




 ◇◇◇




「千尋!」

「入れ」

「……え?」



 ボクの目の前には愛おしくて愛おしくて仕方ない少年、岡崎真治の姿があった。

 真治はボクが助けに来たと思って明るい表情をしたが、ボクが正面の牢屋に入るのを見ると呆けた声を出した。



「やあ真治! ボク理不尽にも拘留されちゃったよ!」

「お前……」



 真治に手を伸ばそうとするけど、真治には届かない。互いに手を伸ばしても廊下が邪魔で触れあえない。

 この状況にボクは既視感があった。



「織姫と彦星みたいだね!」

「そんな話を留置所でするな」



 でも状況はまんま織姫と彦星じゃない? ほら、この通路とかまさしく天の川って感じがするし……



「もしかして、ボクたちって1年に1回しか触れられないの?」

「そんなわけないだろ」



 翌日、再びボクは母さんたちの元へ連れて行かれて取引を提示された。もちろん、そんなものは切って捨てた。その次の日も取引を提示され、切り捨てた。


 それから数日間、同じことを繰り返された。


 さすがに朝から晩まで同じことを毎日繰り返されると精神的にも辛くなってきた。


 それから二週間が経ち、ボクももう限界だった。



「帰ってきなさい」

「……はい」



 ついに言ってしまった……ごめん、真治。ボク、なにもできなかった……



 それからすぐにボクは家族に連れ去られ、実家へと強制送還された。



「ほら、こっち」

「わっ!?」



 首根っこを掴まれて部屋に投げ入れられると首輪をつけられた。

 この首輪は鎖で繋がっていて、部屋から出られないようにされていた。


 ……またこの部屋に戻ってきちゃった。


 真治、逢いたいよ……



「千尋、お帰り。さて、わかっているな?」

「…………」



 ボクの前に立ったのは下半身に何も身につけてない父さん。


 いやだ――――


 いやだいやだいやだいやだ!


 せっかく真治と結ばれたのに! そんなことボクはしたくない!



「抵抗するな!」



 両手を掴まれてその厳つい顔でボクに怒鳴ってきた。


 涙がとまらない。自分が情けなくて、どうしようもなくて、これから父親に犯されるのが怖くて……



「お前は今日から俺の玩具だ! わかったら服を脱げ!」



 やだ、そんなことはしたくない。仮に犯されるにしても自分から脱ぐということは真治を見捨てることになる。それだけはやってはいけない。



「聞き分けの悪い犬だなァ!」

「ひゃあっ!?」



 足を掴まれて逆さまに持ち上げられるとスカートが翻り、ボクの下着が露見する。



「ふん! きたねぇパンツ履きやがって!」



 父さんがボクの下着を奪い取ると、ボクは頭から床に落下した。


 痛い。こんな家族、本当にヤダ……



「うるせぇな!」

「もうやめて!」


 泣き崩れるボクを見ても動じることがない父さん。ボクを黙らせるためにその拳を振るおうとしたときだった。

 部屋の入口から声が聴こえてきた。その声の主はボクの姉、千夏だった――――



「私のためにそんなことしないで、女の子のそんな姿、見たくないよ……」

「千夏! お前のためだぞ!」

「もういいよ! 私が悪いんだからッ!! いくらなんでも他の人を捲き込むのは間違ってるよ……」



 ……え? なに? 全然理解が追い付かないんだけど? どういうこと?



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