第27話 カレー作り系TSっ娘


 高速道路を抜けて山道を走り続けること一時間、ボクたちは林間学校の現地へとたどり着いた!



「真治! 空気がおいしいね!」

「あ、ああ……そうだな……」



 真治の顔がめっちゃ真っ青で、今にも吐きそうな感じがした。


「大丈夫? 吐くなら言ってね、ボクがエチケット袋になってあげるから」

「溶けるぞ」



 ちょっとなら平気だよ。口から吐いてるわけなんだし、それを口に含んで飲み込むぐらいなら問題ないよ。まあ、そんな保証は何処にもないけど。


 ボクたちは先生の指導のもと、バスから降りてすぐに昼食のキャンプ場へと向かった。

 昼食はキャンプ場で班ごとに分かれてみんなでカレーを作るのだ。

 ちなみに今回のメンバーはというと……



「岡崎くん、よろしくね」

「千尋って料理できたよね?」



 うん。まあ、こんな気はしてたよ。というか全部一緒だから登山の時もこのメンバーなんだよね……まったく、油断も隙もありゃしない。



「……俺たち、どうするか」

「あっちの方で薪でも拾って来ようぜ」

「そうだな」



 モブの男二人が森の方へと姿を眩ました。

 できれば美少女も空気を読んで、あのモブたちについて行って欲しかったなぁ……



「千尋は米を磨いでくれ、立花さんは俺と野菜を、愛菜は千尋の手伝いをしてやれ」

「わかった」

「異議あ――――」

「さあ! 美味しいカレーを作りましょうね!」



 ボクの言葉を遮って調子に乗り始めたサルが一匹。真治もやる気満々だし、言いにくくなっちゃった……チッ、最後の幸福だと思ってありがたく思うが良いさ!



 ◇◇◇



「むぅ~」

「千尋、手が止まってるよ」



 だってあの美少女が真治と楽しそうに話してるからムカつくんだもん! 真治の彼女はボクなのにさ!



「……早くお米を磨げば向こうに行けるよ?」

「ハッ!」



 そうだ! 確かに愛菜の言う通りだ! 早くこっちを終わらせれば向こう側に行ける!

 こうなったら秒で終わらせてやる!!



「はい終わり! 愛菜、あとは任せた! 真治ぃ~!」

「あぶなっ!? てい!」

「いたぁッ!」



 真治に抱きつくと頭を叩かれた。

 なんで? 解せないよぉ……



「こっちは包丁持ってんだぞ!」



 もしかして、真治が包丁でボクを刺しちゃったらイヤだからってボクを気遣ってくれたのかな? 真治、そんなにボクのことを大切に思って……! きゅん……



「え? 今のどこにキュン要素あったの?」

「真治の言動すべて」

「そう……」

「ちょっとわかるかも……」

「「え"っ」」



 愛菜と真治の声が重なる。ボクも驚いたけど、声が出なかった。

 この女、ただのにわかかと思ってたけどそうでもないようだ……! これ以上は甘く見ちゃいけない!


 それからなんやかんやでカレーが完成した。



「うまいな……」

「当たり前だよ! ボクが真治のために愛情を込めて、お米を磨いだからね」

「あれ? 磨いでた時間って――――」



 愛菜の口を塞いだ。これ以上余計なことを喋られるのは困る。というか愛情を込めたのは本当だよ? 真治と一緒に居たいっていうね。



「ねえ岡崎くん、あーん」


 ――――っ!?


「た、立花さん……?」

「食べないの?」

「い、いや、いただきます……」



 なんとも図々しいことに美少女が真治に口にカレーをあーんした。いくらボクでもこんなところで引き下がるわけにはいかない。美少女に本物のあーんを見せてあげるよ!



「真治、あーん」

「いや、ちょっと周囲の目が……」

「……食べてくれないの?」



 美少女のあーんは食べるのに、ボクのあーんは食べてくれないの……?

 真治はボクのこと、それぐらいにしか思ってくれて……



「ふぇっ……」

「食べる! 食べるから泣くな! ほら、あーん」

「……あーん」



 カレーを真治の口へと運ぶ。

 でも、そんなイヤイヤ食べてるだけなんて、ボクはヤダよ……慰められるもんなら慰めてみなよ。ボクが一度拗ねたら直るには1ヶ月はかかるからね!



「ほら千尋、あーん」


 真治がカレーをスプーンで掬ってボクの前へと差し出してきた。

 ふん! この程度でボクの機嫌が直るとでも思ってるの!? そうだとしたら大間違いだ……よ……



「……おいしい、真治、もっと」

「はいはい……あーん」

「あーん」



 真治からもう一度あーんして貰った。美少女は一度も食べさせられてないのに、ボクは二回も食べさせてもらった。

 ボクだけ特別……えへへっ。


「えへへ~、もっとちょーだい!」

「ったく、しょうがねーな」

「急に機嫌良くなったね」

「ええ、そうね……」



 ふっ、どうだ美少女! 羨ましいだろォ!

 てめぇごときに真治のあーんは二十億光年早いんだよォ!



「どやぁ……!」

「チッ」



「なあ、同士よ。俺たちっている意味あるか?」

「部屋で仲間たちに情報を拡散するために必要だ。それに、我らの立花さんをあのハーレムリア充クソ野郎から守るんだ……!」

「そうだな!」



 ……ふーん、良いことを聞いた。これは使えそうだね。男子たちにはあとで手を回しておこう。もちろん、真治には手出ししないようにきちんと伝えてからだけどね?



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