第25話 美少女に勝った系TSっ娘


 真治と痴話喧嘩しました。というわけで喫茶店に乗り込んで荒らすことにしました。



「この辺りで喫茶店と言えばここしかない」



 ボクの目の前にある小さな喫茶店。

 その名は『喫茶 葉月』、昼食や夕食の時間を除けばヒトが出入りすることは殆どなく勉強するのに最適な喫茶店である。



「いらっしゃいませー、……迷子のメイドさんかな?」

「ちがう」

「お好きな席へどうぞ」



 ボクよりも小さい店員さんがボクのことを迷子呼ばわりしてきた。ボクよりも小さいってことは幼女相手だよ? ボク、幼女に迷子扱いされたんだよ。もうこの店乗っ取ろうかな?


「ご注文は?」

「……アイスティーで」

「温めますか?」

「大丈夫です」



 ……ボク、アイスって言ったよね?

 店員さんがカウンターの反対側に行くとボクは隣にいる女性から話しかけられた。


「なにか悩んでますか?」

「え?」

「気のせいなら良いですけど、悩んでそうでしたので。話だけでもすれば楽になりますよ」



 その人のテーブルの上を見るとそこには真っ白な原稿用紙と横に倒れている筆ペンがあった。

 ……小説家かな? せっかくなら聞いて貰おうかな?



「実は好きな人にカッとなってしまいまして、そのまま逃げて来ちゃったんです……」

「そんな感じの服装してますもんね」



 これは着替えて来ただけなんだけど……ややこしくなりそうだから黙っておこう。


「それで放課後、喫茶店に来るとか言ってたので、ここで待ってればいつかくるかなと思って……」

「それなら駅前の――――あっ、なんでもないです~」


 途中、なにかを言いかけたけど、店員さんに睨まれると冷や汗を流しながら言葉を濁した。駅前……?



「うちからまた客を奪うか。やっぱり破壊しておく必要があるね……」



 お、おう、ずいぶん商売気質のある幼女だね……本当に破壊しそう。で、その喫茶店はどこにあるの?



「教えないよッ!? 向こう側に客は渡さないから!」

「なんでボクの心を読めるの……」

「神だから!」



 あー、うん。そっかぁ……スゴいねぇー

 さて、帰るか。家で待ってる方が確実に真治と会えるし。


「逃がさぬ!」

「え?」


 首に強い衝撃が加わるとボクはその場で気を失った――――――




 ◇◇◇



「……あれ?」

「起きたか?」



 目を覚ますと真治がいた。

 たしかボクは喫茶店で気絶して……


 辺りを見回すと真治のほかに喫茶店のカウンターとアイスティー、小説家さんに店員さんと美少女が見えた。

 美少女の舌打ちする音が聞こえてきたから美少女はここの喫茶店を狙って来ていたのだろう。



「千尋、その……さっきはごめんな。少し言いすぎた」

「ボクの方こそごめん。いきなり怒鳴っちゃって……」

「じゃあ仲直りのキスしよっか!」



 カウンターの向こう側から声が聞こえてきて、全員でその声の主である店員さんの方を向いた。



「あれ? キスしないの? ……あっ! もしかしてセッむごごごごご!!」



 店員さんが禁止用語を言おうとした瞬間に小説家さんが店員さんの口を抑えた。幼女がなんてセリフを言おうとしてるんだ。

 でも店員さんは良いことを言った! 美少女の目の前でキスする口述を作ってくれたのだ。これは乗らなきゃ損でしょ!



「真治……」



 ボクは真治と向かい合う形で真治の膝の上に座って顔を見上げて目を閉じ、完全待機状態に入る。あとはここで真治がボクにキスすれば全てが完了する!



「ったく、しょうがねーな!」



 ボクと真治の口唇が軽く重なる。



「うっわ、めっちゃ犯罪臭する……」

「少し黙りましょうね、あと他人のことを棚に上げないように」

「はい」



 どうやら店員さんはただ小さいだけで彼氏はいるっぽい。まあ、どうでも良いけど。

 舌、絡ませても良いかな……?



「むぐっ……」

「ほら、もう良いだろ!」

「えっ……?」



 こんな所でお預けを食らってしまった。さすがは真治、一筋縄じゃいかないか。でも美少女には大ダメージのようだ。



「……今日はもう遅いし、ノートだけ借りて帰るね。借りて良いかな?」

「あ、ああ、いいぞ。じゃあ、また明日な」

「うん、また明日……」



 これはもう勝ったでしょ! ボクの勝ちでしょ! やったね!



「真治、帰ろっ!」

「急に機嫌良くなったな」

「いいから! 早く帰ろ!」



 ボクと真治は喫茶店から出て、手を繋いで家まで帰ったのだった――――――



「お会計……」

「まあ、良いじゃないですか」

「音無さん代わりに払ってください」

「……さらばですぅ~」

「今月赤字でヤバいんです! 代わりに払ってください! お願いします!」



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