第14話 記憶喪失で自爆する系TSっ娘



「……あれ?」


 ここは……? うっ! なにも思い出せない……



「千尋、起きたか?」



 襖が開くと、知らない男の人がいた。



「……だれ?」

「は?」



 男の人は少し戸惑ったような顔をしているけど、わからない……



「真治だよ。忘れちゃったのか?」

「え? うん……」

「千尋は俺のなんだっけ?」

「?」



 この人、何を言ってるのかな? 全然わかんないよ……



「あれ? え? マジ? ちょっ、ちょっと待ってろよ」



 そこから慌ただしくて、男の人に色々と聞かれた。

 なにも覚えてないから何も言えなかったけど……



「真治、どう?」

「いや、何も覚えてないな」

「そっか」



 なんだろう……よくわからないけど、この女にスゴい苛立ちを覚える。



「残念だね」


 と言いながら男の人に胸を挟みながら言う。反射的に自分の胸を見ると平坦な丘があるだけだった。


 ……よくわからないけど、ムカつくから1発殴ろ。



「千尋、落ち着け。その握りしめた拳はそっと地面に置くんだ」



 男はそっと手を地面に置かせようとする。

 だが、ここで女がとある行動に出た。



「真治と密着ぅ~♪ ――ヘブッ!?」



 あまりにもムカついたものだから、思わず手が出てしまった。

 どうしてかな……? もしかして記憶がある時にはよくやってたのかな? 身体が覚えてるってやつ?



「ま、まあ……うん。とりあえず休め。ゆっくりしてれば記憶が戻るかもしれないしな」



 というわけで布団に寝かしつけられる。

 何もわからない。何もわからないけど、1つだけ言えることがある。



 たぶん、本来の自分はこの人のことが大好きなんだろう。

 この人に触れる度に心臓の鼓動が早くなるのを感じる。でも、男の人からの反応はそんなに良さそうには見えない。


 だから、自分の気持ちを上手く伝えられてないんだと思う。記憶が戻ったらこの気持ちが伝えられないかもしれない……



 だったら――――――!



「好き……」

「え?」

「身体が言ってる。誰かわからないけど、あなたのことが好き」



 男の人が戸惑う。ついでに腹パンを喰らった女も戸惑っていた。


 女はともかくとして、男の方は気持ちに気づいてなかったという感じかな?

 これだけ心臓がバクバク言ってるならそれなりに表情にも出てるとは思うけど…………もしかして鈍いのかな?


 ちょっと眠いな……寝よ……




 ◇◇◇




「……ちにたい」

「ああ、うん……そうか」

「そうか。じゃないよ!?」



 記憶が無かったからとは言え、真治に告白してしまうなんて恥ずかし過ぎる!!

 今までは若干おちゃらけた感じを含んでいたから平気だったけど!

 こんなにダイレクトに気持ち伝えられるなんて恥ずかしいよぉ……!


 これを言うことすら恥ずかしくて何も言えないけど!!



「責任取って」

「は?」

「じゃないと、もう真治の顔なんて見られない!! 恥ずかしい!!」


「え? いやっ……その……」



 するとそのタイミングで襖が開き、真治のお爺ちゃんとお婆ちゃんが部屋に入ってきた。



「真治、ここはガツンと受け入れなさいよ。ここまで真治のことを想ってくれてる人なんて居ないんだから」



 愛菜、いくら自分のことを指さしても無駄だ。貴様は既に敗北者なんだよ。二度と表舞台に立つな。



「でも俺は……」

「千尋ちゃんと友達で居たいからって? 甘ったれてんじゃないよ! 真治と千尋ちゃんは男と女だよ! それでもって一緒に住んでる? そんなもの既に恋人以上だよ!」



 真治のお婆ちゃん、めっちゃ良いこと言うじゃん……

 今まで余計なことばっかりするババアとか思っててごめんなさい。



「アンタに拒否権は最初から無いのよ。さっさと、覚悟を決めな! 真治!」

「千尋はあまり女として見ないようにしてたんだけどな……ドストライクだったし。


 まあ……アレだ。よろしくな千尋」



 途中、ボソボソ言ってて聞こえなかった部分が少しあったけど、ボクと真治は思いも寄らぬ所で結ばれてしまった――――――



「うんっ! よろしくね真治!」






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