概要
そう彼女は言った。
あの戦争から一年。
元ソビエト赤軍最高峰の狙撃手、少数民族ヤクート人のゾーニャ。元大日本帝国の尖兵、反共コサックの血をひくヴィクトリア小沢。
かつて敵同士だったふたりは、亡国満洲を彷徨っていた。
ある日ふたりは中国共産党八路軍に追われていた日本人の子供、ユズと出会う。知らない故郷・日本を目指しているというユズに、ふたりは成り行きで協力する。
だがユズの秘密を巡り、八路軍だけでなくソビエトとアメリカ、二大超大国もまた策動する。
それは、ふたりにとって忘れがたい過去もまた追いすがることを意味していた。
総力戦終結から長大な戦間期へと至るきざはし、人
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!語りえぬことについても、沈黙を破らずにはいられない
この作品は疑いなく名作である。が、与えられた評価は過小であると言わざるを得ない。それは何故かと言えば、扱うテーマの特殊性であろう。
狙撃手と戦争。
終戦後の満州と大国の策動。
少女と少女の関係性。
難しい。見慣れない。これに尽きる。知識が不足しすぎて、言及するのに憚られる。
だから、語りえないから、敬遠されがちなのかもしれない。
だが待ってほしい。真の名作とは、難解な主題性や哲学性とエンターテインメントを両立するものである。本作はまさにそれで、戦争、諜報、風土、民族、文化についての圧倒的な知識と、民族と国家、戦争と個人、惨禍と女性といった思索性を共に内包している。それらを堅実な国語とコミカル…続きを読む - ★★★ Excellent!!!これぞ冒険小説! と言いたい作品
なかなかよい冒険小説には巡り会えないものですが、この作品はまさに堂々たる冒険小説。個人的にはたいへん楽しんで読んでいます。舞台設定のチョイスもうまいし、キャラクター造形も巧み。さらには──個人的な嗜好の話で恐縮ですが──銃火器の描写が見事! キャラクターの個性と銃火器のチョイスがうまくリンクされていて、さすがだな! と感心してしまいます。
そして、何よりも、この作品は、人間の痛み、悲しみ、それでも失われない誇りをきちんと描いていて、それが何よりもよいと思います。それこそが、この作品を冒険小説たらしめる大事な要素です。
まだまだ冒険ははじまったばかり……これからの展開から目が離せません! - ★★★ Excellent!!!戦後、満洲、闘争、旅路、百合。圧倒的質感で殴られる、これは最強殺伐百合
物語、特に非現代日本が舞台の小説は、往々にして「質感」が大きなウェイトを占める。
その世界にある常識、そのキャラクターの来歴ゆえの思想や振る舞い、知識量に裏打ちされた些細な設定…要は考証の細やかさである。これが描写や物語に反映できている作品は強い。
ならばこの作品は? 最強である。殺伐百合でここまで強い作品が現れてしまったことに恐ろしさすら感じる。こんなレビュー読んでる暇があったらさっさと本編読んでくれ。
舞台は戦後の満洲。主人公はソ連の女狙撃手(元)と、大日本帝国のもとで戦った女反共コサック兵(元)。複雑な事情を抱えながら旅を続けるふたりは幼い日本人少女に出会い、彼女の日本帰還に協力する…続きを読む - ★★★ Excellent!!!舞台として一番面白い時代と場所
満州帝国は日本、中華民国、ソ連、モンゴルと国境を接しており、各国の対立やソ連に反旗を翻す白系ロシア、コサックなどの政治・民族的な要因などが加わり、その歴史を複雑に彩っている。各国の諜報機関が活躍することでは租界時代の魔都上海と劣らない。ハルビンの特務機関、白系露人事務局、ハイラルなどのロシア人部隊の編成などを考えると、特務や諜報の規模は上海よりもはるかに大きい。
にもかかわらず、極東やシベリア、満州を舞台とする小説は少ない。満州というより大陸浪人であるが、『夕日と拳銃』の主人公のモデルである伊達順之介などモンゴル、満州から中国東北部にかけて夢を描いた人々の情熱、そして時代の変化共に挫折し…続きを読む