戦後、満洲、闘争、旅路、百合。圧倒的質感で殴られる、これは最強殺伐百合

物語、特に非現代日本が舞台の小説は、往々にして「質感」が大きなウェイトを占める。
その世界にある常識、そのキャラクターの来歴ゆえの思想や振る舞い、知識量に裏打ちされた些細な設定…要は考証の細やかさである。これが描写や物語に反映できている作品は強い。
ならばこの作品は? 最強である。殺伐百合でここまで強い作品が現れてしまったことに恐ろしさすら感じる。こんなレビュー読んでる暇があったらさっさと本編読んでくれ。

舞台は戦後の満洲。主人公はソ連の女狙撃手(元)と、大日本帝国のもとで戦った女反共コサック兵(元)。複雑な事情を抱えながら旅を続けるふたりは幼い日本人少女に出会い、彼女の日本帰還に協力する…今の話の進展度は、だいたいあらすじに書かれているところまでである。
しかし密度がすごい。狙撃手のゾーニャが従軍していた頃の銃撃戦、コサック兵のヴィカが得意とするナイフ術、二人が野営してごはんを食べるシーン……こんなエピソードのひとつひとつが、綿密な考証に裏付けられて圧倒的な説得力を生んでいる。こんなの文章読んでるだけで面白い。
もちろんキャラクターの人物描写もぬかりない。生まれ育った環境がいかに反映されているかが細やかに描写されている。また主人公二人は一見仲睦まじいやり取りが多く見えるが、根本的なところで断絶を抱え、互いに距離を保っている。圧倒的百合。13話を読め。

そして何がすごいかというと、この質感と考証の細やかさが物語の面白さに直結しているのがすごい。
前述したようなシーンやキャラクターの細やかさだけではなく、物語そのものの骨太さダイナミックさでも楽しませてくれるのだ。この物語はかなり恣意的な表現をすると「戦後満洲怪獣大決戦」である。崩壊した満洲を舞台に米ソの諜報機関や中国共産党軍まで暗躍しているのである。
いやこれもあらすじに乗っているのだが、もうこれは実際に読んでほしい。説得力が圧倒的だ。女子三人旅がこんな連中とどう渡り合うのか考えただけで心が躍る。

早く続きが読みたいけど毎回こんなに心乱されるのも困ってしまう。そんな気持ちにさせられる本作、一刻も早く読みなさい。


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