語りえぬことについても、沈黙を破らずにはいられない

この作品は疑いなく名作である。が、与えられた評価は過小であると言わざるを得ない。それは何故かと言えば、扱うテーマの特殊性であろう。
狙撃手と戦争。
終戦後の満州と大国の策動。
少女と少女の関係性。
難しい。見慣れない。これに尽きる。知識が不足しすぎて、言及するのに憚られる。
だから、語りえないから、敬遠されがちなのかもしれない。
だが待ってほしい。真の名作とは、難解な主題性や哲学性とエンターテインメントを両立するものである。本作はまさにそれで、戦争、諜報、風土、民族、文化についての圧倒的な知識と、民族と国家、戦争と個人、惨禍と女性といった思索性を共に内包している。それらを堅実な国語とコミカルな表現を使い分けながら補強しつつ、その目を見張るほどのキャラクターの魅力で淀みなく運営している。とかく、キャラクターの個性と風土の表現だけでも相当な面白さを享受出来るから、読んで後悔することはないと断言しよう。
長々と書いたが、おもしろい。この5字以上に本作を形容するに適切な言葉はない。
とにかく面白いから、よんでくれ。
序章、第一章だけでもいい。それで十分、そこを読めば、最後まで読まずには居れないだろう。
自分にとり語りえないことについて、語り、考え、楽しんでもいいじゃないか。かの哲学者も、自分の言葉を晩年になって完全否定したのだから。

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