事故により逃れられない死の運命を背負わされた人たちが、閉鎖されたコミュニティで生きていく...そんなお話です。
主要な人物たちの暗い過去、生き様、そして最期が卓越した文章力で描かれています。特に物語後半は前半の描写の積み重ねも相まってとんでもない爆発力を有しています。
自分は「登場人物にとっては幸せでも、読み手の解釈によってはバッドエンド」という意味でのメリーバッドエンドが少し苦手な人間ですが、「一緒に幸せに生き続けてくれ〜〜」という気持ちと同じくらい「よかったね...」という穏やかな気持ちが大きかったので、「ちょっと設定がつらいかも」という人も1度読んでみてはいかがでしょうか。
エピローグやあとがきを何度も読んで思い出し泣きしてしまいました。
作者様の他作品も楽しませていただきます。
人が死ぬのは、とても悲しいことだと思います。それは例えば、家族だったり、友達だったり。身近で、関わりが沢山ある親しい人が亡くなったときのショックは勿論、きっと多感な人だったなら、ニュースなんかで名前も声も知らない誰かが亡くなったのを知って心を痛めたりもするんだと思います。
このIn The Cityという小説は、そういった人の「死」そのものよりは、死によって引き起こされる心の動きを徹頭徹尾、丁寧に繊細に描き上げた作品だったように思います。
爆発事故の起きた炭鉱都市を舞台に、外界と隔てられた狭い世界の中、必死に生にしがみつく彼女たちの生活。ほんの些細なきっかけによって、それはゆっくりと崩れはじめます。
ガスに侵され、壊されていく住民たちの身体に心。隠された症状の秘密が明らかになっていくうち、僕は確かに悲しいとか重いとか苦しいとか、そういった「負の感情」みたいなものを抱いていたはずでした。
それが読み進めていくと不思議なことに、いつの間にやらその感情が違う形へと変わっていきます。
住民たちの命の火はどんどん小さくなって、輝きも熱も弱くなっているのをひしひし感じるのに。誰かが痛みを感じたり死んだりするというのは、悲しく辛いことであるはずなのに。いずれ来る終わりが近づけば近づくほど、それとは反比例して読んでいる側の心境を背徳に熱く燃えるようにどきどきさせてくれます。
苦痛であるはずの事柄に対して抱く気持ちが徐々に変質していくこの読み味は、ほんの少しだけ、この団地に住む人たちの抱えている問題に似ているように思います。
起きている出来事自体は、理解してしまえばそこまで複雑なものではなく、それを魅力的に仕上げている巧みな文章は、万人に一読の価値があると思います。
キャラクターの設定や構成よりも先んじて感覚的に心を揺らすような、詩にも似た楽しみ方のできる一文が随所に織り交ぜられています。
作品の至る場面に思わず唸るような表現があり、全体的に淡々とした冷たさえ覚えるような筆致でありながら、最期の最期には優しく暖かい言葉で死を描く。時折挟まれる詩的な表現はそのギャップも相まって、非常に心を打つものがありました。
読了後、改めてやっぱり人が死ぬのはとても悲しいことだと思います。
激重設定から抽出される百合の成分はとんでもなく美味だということがわかりました(?)
伏線が処理されてない地雷みたいにいたるところにあって、歩くごとにそれらが悉く起爆していき、終には爆発によって開けられた穴ぼこのような虚無感が遺りましたね。この感覚に暫くは心中を貪られてました。
時代背景や炭山付近の団地というセットもリアリティがあって、読み始めた時は本当にこんな事件が実在したのかと検索したりしてました。無かったです。でもそれほどまでに如実に描かれているということに感嘆し、そしてその世界に囚われている彼女らにひたすら涙しました。
閉鎖空間×謎のガスの蔓延×群像劇×殺伐百合。いや、よくもこんなものを思いついてくれたなと膝を叩きました。完敗です。
話の内容は作品のあらすじ通りです。閉ざされた街でガスに侵されながら生きていく人々の群像劇百合。
もうこの時点で好きなのですが、限られた物資を分け合う描写や当番制の設定など、理不尽な極限状況に陥っても日々の生活を保とうとする一種の逞しさ、あるいは諦めが光る。
さらにメインカプ3組の他にも挿話で別の住民の百合エピソードが描かれており、狭い空間の豊かな世界観に溺れます。やり口が天才すぎる。年商5億円。
退廃的な設定、終わりへ向かう世界を生き抜く人々、その中で芽生えてゆく女たちの関係性。
どこかにピンとくるものがあれば絶対に読んだほうがいいです。というかこんなレビュー読む暇があったら1話目を読んでください。ほら早く。今すぐに。
舞台は事故によりコミュニティごと隔絶された炭鉱都市。仕事や家族や日常を奪われ、限られた自由と世界の中に囚われてしまった人々を描く群像劇です。
やや特殊な設定ではありますが、あくまでもそこに生きる人へ丁寧にスポットが当てられているため、物語へ没入することはそう難しくありません。世界観の提示も説明的な文章に頼ることなく、作中で起こる出来事や人々の口から点と点を結ぶように補完されていきます。
主題とは交わらない些細なエピソードや会話に交じる方言など、細やかかつ巧みに配置されたアクセントで登場人物たちの質感を補強していく手腕。そして忍び寄る病や狂気を感じながらも、それでも抗い生にしがみつこうとする人々の危ういバランスで成り立った生活に迫る描写が秀逸です。
日々の懸念やストレスで摩耗し、それらを他愛のない事柄に縋って忘れるだけの生活。たとえ光明が見えなかったとしても、不格好でも、誇りを持って生きるしかない。一見突拍子もない世界観でありながら、その実私たちが過ごす現代社会との類似点はそこまで少なくないことにすぐに気づくことができます。
彼ら彼女らの抱く感情や苦悩や欲求は、生き抜くという一点のために美しくも残酷に収束していくのです。
連載が始まって間もない段階ではありますが、既に魅力的な登場人物や伏線が次々と集まってきており、この物語の進む先が今から楽しみでなりません。
この群像劇が交差し始めた時に何が起こるのか。人々が何を望み、何を求めて生きるのか。練り込まれた箱庭世界にあなたも気づけば魅了され、読む手が止まらなくなることでしょう。