生にしがみつく魂が共鳴する退廃世界の群像劇


舞台は事故によりコミュニティごと隔絶された炭鉱都市。仕事や家族や日常を奪われ、限られた自由と世界の中に囚われてしまった人々を描く群像劇です。

やや特殊な設定ではありますが、あくまでもそこに生きる人へ丁寧にスポットが当てられているため、物語へ没入することはそう難しくありません。世界観の提示も説明的な文章に頼ることなく、作中で起こる出来事や人々の口から点と点を結ぶように補完されていきます。
主題とは交わらない些細なエピソードや会話に交じる方言など、細やかかつ巧みに配置されたアクセントで登場人物たちの質感を補強していく手腕。そして忍び寄る病や狂気を感じながらも、それでも抗い生にしがみつこうとする人々の危ういバランスで成り立った生活に迫る描写が秀逸です。

日々の懸念やストレスで摩耗し、それらを他愛のない事柄に縋って忘れるだけの生活。たとえ光明が見えなかったとしても、不格好でも、誇りを持って生きるしかない。一見突拍子もない世界観でありながら、その実私たちが過ごす現代社会との類似点はそこまで少なくないことにすぐに気づくことができます。
彼ら彼女らの抱く感情や苦悩や欲求は、生き抜くという一点のために美しくも残酷に収束していくのです。

連載が始まって間もない段階ではありますが、既に魅力的な登場人物や伏線が次々と集まってきており、この物語の進む先が今から楽しみでなりません。
この群像劇が交差し始めた時に何が起こるのか。人々が何を望み、何を求めて生きるのか。練り込まれた箱庭世界にあなたも気づけば魅了され、読む手が止まらなくなることでしょう。

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