転生したら防御力999(カンスト)で四次元ポケット持ちの珍獣系モンスターだったのでひたすら“石”を掘り続けてたらアイテム長者になっていた
山田 マイク
第1話 ラキラキ
Σ
ダンジョンの壁をザクザク掘る。
硬いはずの内壁は面白いようにスイスイ掘れる。
大した筋力も無い俺の力でも、まるでプリンをスプーンで削っているようにサクサク掘り進めることが出来る。
非力な俺が何故こんなことが出来るかというと、それは俺の使っているこの“スコップ”に秘密がある。
シャベル部分が僅かに蒼白い光彩を放つこのアイテムは、レア度MAXの伝説の掘削具である。
なんでも、この道具の金属の部分はオリハルコンで出来ているという。
ほとんど力を入れなくても、シャクシャクと面白いように掘れる。
俺は一日のほとんどを、こうしてダンジョンを掘削し続けている。
掘っていると、時々、とても硬い鉱物に行き当たる。
それはこの世界では“
オリハルコンでも割れない不思議な石。
こいつはとても重要な意味を持つ。
ダンジョン内にある“竜の口”と呼ばれる未知の機械がある。
そいつはダンジョン内の誰に聞いても、正確な情報が分からない。
壁から竜の口のようなモニュメントが突き出していて、その中に“魔耀石”を入れると、ランダムで何かしらのアイテムが出てくるのだ。
俺はもう、何年もこのダンジョンでこの“石”を掘り続けている。
下手したら十年、いや二十年くらい経っているかもしれない。
正直、もうとっくの昔にアイテムも全てコンプリートしている。
欲しいものは何もない。
目的も、意味も、何一つない。
では、どうしてこんなことをしているか。
理由は一つ。
他にすることがないからだ。
俺は絶望している。
何に?
決まってるだろ。
自分の人生に、だ。
Σ
ザクザクザク。
俺はいつも一人で壁を掘る。
ダンジョンには様々なモンスターがいる。
中には言葉を話せるやつもいる。
だが、俺は誰ともつるまない。
今まで、ろくな奴に出会って来なかったからだ。
モンスターのほとんどは、俺を捕食しようとする。
知能が低い奴らが多くて、まともに会話も成り立たない。
どうやら、奴らからすると、俺は美味そうに見えるらしい。
だが、もう何年も襲われていない。
頭の悪いここの化け物どもも、どうやらようやく気付いたらしい。
この俺が――
「あんたでしょ、ルルブロって」
不意に、背後から声がした。
振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。
一見すると普通の人間のようだが、このダンジョンに人間はいない。
彼女の背中には大きな蝶のような羽がついている。
よく見ると、耳も尖っていた。
「何の用だ」
と、俺は言った。
「なーによ、そんなに怖い声出さないでよ」
妖精は軽口を言った。
「用が無きゃ話かけちゃダメなの?」
「駄目だ」
「なんでよ」
「俺は忙しいんだ」
「あら。噂通りね。今日も魔耀石を掘りまくってる」
「そうだ。分かったら帰れ」
俺は背を向け、再びスコップを動かし始めた。
「つれないわねー」
名も知れない妖精は、そう言って俺の横に移動した。
そしてそのまま俺の横に座り込み、俺の掘削作業を眺め始めた。
「目障りだ。さっさとどっかに行け」
俺は言った。
「いやだよーん」
妖精は口を尖らせて言った。
しょうがない。
俺は無視して掘り進んだ。
少し掘ったら、またすぐ横に移動する。
そのたびに、そいつはついてきた。
なんだこいつ。
俺は少しムッとしていた。
俺は一人がいいのに。
誰にも干渉されたくないのに。
「なあ、本当に、どこかへ行ってくれないか」
ついに、根負けして手を止める。
「目的はなんだ」
「目的? 別にないわよ」
「嘘つけ。ダンジョンのモンスターが、理由もなく俺に近寄るはずがない」
「そうねえ。強いて言うなら、友達、になってあげようと思って」
「トモダチ?」
俺は顔を顰めた。
何十年ぶりに使った言葉だった。
「だってさー、あんたいっつも一人で寂しそうだし。私みたいな美少女が友達にいたら、嬉しいでしょ?」
妖精はそう言うと、体をくねくねとくねらせた。
間抜けなダンスだったが、たしかに彼女は美人だった。
元人間の俺から見て、だが。
「トモダチなんていらない」
と、俺は言った。
「化け物と仲良くなる気はない」
「なによ、化け物って」
「本当のことだろ」
「失礼しちゃうわ。大体、ビジュアル的にはあんたの方がよっぽど醜いじゃない」
「そうだ。だから、近寄ってくるな」
「んもう。どうしてそう捻くれてるのよ」
「いいから、どこかへ行ってくれ。横にいられると気が散るんだ」
「あ、そう。横にいなきゃいいのね」
妖精はそう言うと、羽をゆっくりと羽ばたかせた。
それから、彼女の姿は発光し始めた。
次の瞬間、俺は思わず目を見張った。
妖精の体が、手のひらサイズまで縮んでいったのだ。
「これなら、目障りじゃないでしょ」
妖精は言いながら、俺の肩にちょこんと腰かけた。
「……お前、名前は」
と、俺は言った。
「あたし? あたしは、ラキラキ」
「変な名前だな」
「ルルブロだって変でしょ」
「それは俺の名前じゃない。勝手にそう呼ばれてるだけだ」
「あら。それじゃ、あんたの本名は?」
「本名はない」
「呆れた。あなた、名前がないの?」
「ああ」
「じゃ、ルルブロでいいじゃん」
妖精――ラキラキは俺の耳元でケラケラと笑った。
俺はふんと鼻を鳴らした。
「ね。お願い。ここにいさせて。邪魔しないから」
ラキラキが言った。
「……仕方がない」
俺は呟いて、やれやれと首を振った。
コイツ、一体なにを考えているのか。
俺は訝っていた。
こんな奴に出会ったのは初めてだった。
これまで会ってきたモンスターどもとは明らかに違う。
だが――おそらく、この女もなにか企みがあるんだろう。
俺は知っている。
この世界は弱肉強食。
奪うものと奪われるもの。
それ以外の関係などない、ということを。
俺は作業に戻った。
壁を掘った。
掘って掘って、掘りまくった。
その途中、俺はちらと、ラキラキを見た。
ふんふーんと調子の外れた鼻歌を歌いながら、足をブラブラさせている。
変な奴。
変な奴だけど――
不思議と、そんなに嫌な気分ではなかった。
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