第6話 モンスターハウスへ


 Σ


 それから、モンスターの亡骸はさらに数体見つかった。

 大部屋にたどり着くまでに3体、点々と転がっていた。


 全て、見事な斬り口で一刀両断されていた。


 近づくたび、未知に対する緊張感が増していった。

 一体この先で、何が起こっているのだろう。


 やがて駄々広い大部屋モンスターハウスについた。

 思ったよりずっと広い部屋だった。

 天井は高く、緩やかなアーチ状になっている。


 キンッキンッ、という金属が擦れ合うような音が聞こえた。

 それから、モンスターたちの怒号。

 目をやると、奥の方に化け物たちが集まっているのが見えた。


 あれは――戦闘中だ。


 俺たちは気配を殺しながら近づいた。

 今はちょうど――大きめのドラゴンと戦っている。


 鈍く光る銀色の鱗を纏った美しい龍だ。

 首が長く、大きな翼を持っている。

 しかし、あの巨体では俊敏には動けないだろう。

 現に、今は恐ろしい牙を剥き出しにして、飛び回る人間に苦慮していた。


 あれがバリアント・ドラゴンか。


「すげぇ」


 少し離れたところで、ブルータスが呟いた。


「あの野郎、バリアント・ドラゴンと一対一で戦ってやがる。しかも――いい勝負」

「ほんと。しかも、本当に“人間”だわ」


 ラキラキが感心するように言う。

 

 俺も二人と同様に驚いていた。

 だが、一番びっくりしたのが――


 勇猛に戦っているのが、女性だということだ。


 どうやら、その辺りはラキラキとブルータスにはどうでもいいらしい。


「ほかのモンスターは全てやられちゃったのかしら」

「……いや、倒れている数が少ない。どうやら、ほとんどは逃げちまったようだな」

「或いは、どこかへ別の階層へ飛ばしたか」


 俺は呟いた。


「どこかへ飛ばした?」

「そうだ。そういうアイテムがある」

「へえ。便利ね」


 ラキラキが頷いた。


「というか、あんたってほんとズルいわね」

「戦いにズルいもくそもない。こっちだって命がけだ」

「確かにね。でもずるいものはずるい」


 俺たちは再び、戦闘に目を移した。


 バリアント・ドラゴンは冷気の炎を吐いた。

 どうやら氷属性の水龍の類らしい。

 俺は相手の力量が数値化できる、『ステータス・グラス』を再び取り出した。

 

『 Lv37


 HP 1050

 MP 70

 AP 230

 DP 180

 SP 900


 口から強力な吹雪を吐く。

 自然治癒能力を持っている。


 氷属性。

 炎に弱い。』


 なるほど。

 コイツは強い、と思った。


 体力がある上に、ドラゴン族特有の自然回復を持っている。

 奴らの吐く炎や吹雪は魔力とは無関係だから、体力や気力が消費されることはない。

 ただでさえ龍族は厄介なのに、バリアント・ドラゴンはその中でもかなり上位のモンスターだ。


 長引けば長引くほど不利になるだろう。


 この階層に、このクラスのモンスターは滅多にいない。

 この強さなら、確かにブルータスでは歯が立たないだろう。

 無属性であり、道具も使えないオークには勝ち目はない。


 いや、ブルータスが弱いわけではない。

 この浅い階にこんな強いモンスターが根を張り通行を邪魔していれば、ダンジョンは二分されてしまいのも仕方がないというものだ。


 俺は二人の戦いを見ていた。


 女の方もかなり強い。

 特に剣戟は大したものだ。

 身を翻し、踊るように戦っている。


 しかし――この勝負、ドラゴンの勝ちだ。


 なにしろ体力に差がありすぎる。

 生身の人間に、あの氷の息吹アイス・ブレスはかなりキツイだろう。


 このままではいずれじり貧だ。

 今は持ちこたえているが、もう直きにあの人間は死ぬ。


 俺は立ち上がった。


「行って来る」


 と、俺は言った。


「マ、マジかよ、ルルブロ」

 と、ブルータス。

「もうちょっと見ていればいいじゃねえか。あの人間、きっともっとダメージを与えるぜ。それだけ、ドラゴンの消耗も増える」


「そうかもな。だが、それじゃああの女は殺される」

「何か問題でもあるのか?」

「別に」

「まさか、人間に肩入れするのか?」

「ああ」

「なんでだよ。あんな種族、放っとけばいいだろ」

「確かにな。自分でもそう思う。

「じゃあ、どうして」

「さてな」


 俺はそれだけ言い残して、歩き出した。

 背中から、「気をつけるのよ、ルルブロ!」というラキラキの声が聞こえてきた。


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