第5話 美人担任
そして、その時はやってくる。
教室の扉が開けられるなり、軍隊のようにピタッと私語が止む。
そう、僕たちは兵士。教壇に立つ美しき司令官の命令に忠実に従う兵士だ。
もし歯向かうものなら、たちまち彼女の鋭い眼光に射抜かれる。
そんなものを自ら望むのは、一部の変わった嗜好を持ったドMのみ。
しかし、彼らが熱を上げるのは無理もない。
それほどまでに、彼女の見目は麗しかった。
美しき女教師の名は、
最低限の化粧が施された端正な顔立ちは、素のポテンシャルの高さを窺わせる。そして、大きく開いた胸元、スラっと伸びる引き締まった美脚に黒タイツ。
そのプロポーションを抑え込むには、リクルートスーツでは心許ないどころか、殊更ボディラインを強調していた。
外見だけならば、全国の男子生徒が一度でも夢見る美人女教師の理想の全てを体現していた。
しかし、彼女の真価は純粋に教師としての手腕にある。
赴任三年目ながら、入学式の初回ホームルームの時点でクラスの生徒全員に恐怖心を植え付け人心掌握し、統率。
担当科目である数学の授業では、誰一人として私語を発する者はなく密度ある時間を送る。結果、テストの平均点では他の科目を大きく引き離して高得点を記録した。
また、女子バスケットボール部の顧問も務めていて、昨年は関東大会出場を果たした。今年は全国も射程距離だと言われているらしい。
それ故に、彼女は恐れられてはいるが、それ以上に多くの生徒たちからの尊敬と信頼を集めていた。
「これより中間試験の結果表を配る。呼ばれた者は速やかに前へ」
そう、本日は試験結果が返される日であるのだが、もはや恐怖しかなかった。
今回のテストがボロボロだった自覚はある。
唯一先生の担当する数学だけは赤点ではない自信はあるが、それでも決していい点数ではないだろう。
「
そして僕の名前が呼ばれる。
僕は死すら覚悟して由加里先生の前に立ち、結果用紙を受け取る。
さっと目を通しただけで目眩がした。
目の前が真っ白に、もとい真っ赤になった。赤だらけだった。
実に5教科中3教科。これはシャレになっていない。
彼女の雷がすぐにでも落ちてくると思われた。
だが、
目の前の美人鬼教師からは、先程まで放っていた威圧感あるオーラは身を潜めているように感じた。
そして、
「放課後、生徒指導室に来たまえ」
そう一言、周囲には聞こえないような声で僕に言った。
僕は一瞬呆けてしまったが、戸惑いがちに頷き、すぐに自分の席へと戻っていった。
それから数人の後。
安原さんの頭上に雷が落ちたようだった。
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