第29話 味方
そして、翌日。
学校側から僕に言い渡された処分は、一週間の自宅謹慎だった。
朝、目が覚めても、起き上がる気力が沸いてこなかった。
自分の格好を見ると、制服のままだった。
昨日、自宅謹慎を言い渡されて帰宅した後、そのままベッドで眠ってしまったらしい。
いつ眠ったのか憶えてないし、いつの間に家に帰っていたのかも記憶に無い。
一日なにも食べてないけど、腹も減っていなかった。減っていても、食べる気力すらない。
なにもしたくない。
なにも考えたくない。
ただぼうっと、天井を眺めていた。そのうちにまた、眠っていた。
次に目を覚ましたのは、インターホンのチャイムに起こされたときだった。
繰り返し鳴り響くインターホンに、今日初めて僕はベッドから上体を起こした。
時刻は17時を回っていた。外はまだ明るい。
重い身体を起こして、玄関へと向かった。
扉を開け、そこに立っていた来訪者に、僕は少し驚いた。
安原さんと眞白さんだった。
「よ! 元気?」
「と、友瀬くん。ごめんね、急に家まで来ちゃって……」
いつもと変わらぬ明るい笑顔の安原さんと、心配げな視線を向けてくる眞白さん。なんとも対照的な二人だった。
「二人、とも……どうして、ここに」
「どうしてって、あんたが勝手に謹慎になってるからでしょ」
キリッと、少し怒っているかのような表情で睨んでくる安原さん。
いや、勝手にって言われても。学校が決めたことだし。
けど、安原さんが怒っているのは、僕が二人に何も告げなかったことに対して怒っているというようなニュアンスを感じた。
「いやー、でもあたしも抜けてたわ。あんたにLINE訊いとくの忘れてたし。可奈ちんも知らないっていうからさー」
「ご、ごめんなさい。私も、訊いておけばよかったって、後で思って」
「ま、それはいいんだけどさー……友瀬、あんたなんで素直に謹慎受け容れてんのよ」
安原さんの声色が、真剣なものに変わる。
「あんたがカンニングなんて、するはずないじゃん! しかも数学で」
「わ、私もそう思う。友瀬くん、そんなことしなくてもすごく勉強できるし。数学は特に」
こちらの様子を窺いながら、眞白さんも口を開く。
「あんたがカンニングで謹慎ってなってからさ、あたしら二人ともそれは無い、って思ったのよ。そしたら、可奈ちんが先生達のとこに話しに行くって言ってさ。あたしも一緒についていったの」
え?
「私達が行ったとき、ちょうど職員会議中で。安原さん、先生達に止められても引き下がらずに何度も訴えてくれて」
そんな、ことが……
沈んでいたはずの胸の奥に、ほんの少し灯りが灯るような感じがした。
「安原さんが一緒に来てくれてよかった。私だけだったらたぶん、なにも言えなかった」
「なんかあたし達が行ったとき、ちょうど由加里ちゃんもあんたの無実を他の先生たちに話してたみたいでさー。あたしらの話も聞いてあげてくれって言ってくれたんよー」
由加里先生……
「けど、試験監督してた根本の言葉と、教頭の他の生徒への示しがどうのって話が強くて、結局結論は変わらなかった。だからごめんッ、友瀬! 力になれなくて」
大きく頭を下げる安原さんと、彼女に続いて眞白さんも小さく頭を下げる。
二人の姿に、僕は慌てて否定した。
「そ、そんな……二人が謝ることはないよ。むしろ、そこまでしてくれて申し訳ないっていうか……」
二人がゆっくりと顔を上げる。
「もう、いまさら信じてくれなんて言えないけど、僕は本当にカンニングなんてしてないんだ。僕は―――」
「いや、そんなの分かってるし」
安原さんが僕の声を遮って、断言する。
「だってあんたさー、がんばってたじゃん」
「え?」
「私も、安原さんと同じだよ。友瀬くん、あんなに毎日、朝早くからがんばってたんだもん」
がんばった。
その言葉が複雑に僕の中で渦巻き、押し込めていた感情を呼び起こした。
「ありがとう、二人とも」
二人が僕のために声を上げてくれたり、こうして家まで来てくれたことは本当に嬉しかった。
これまで友達なんて一人もいなくて、僕なんかがいなくなったところで気にする人なんて誰もいないと思っていたから。
「本当に、ありがとう」
もう一度お礼を言って、僕は二人を見送った。
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