第30話 虚

部屋に戻り、僕は力が抜けたようにベッドに腰掛けた。


すっかり陽が沈み、電気をつけていない部屋は薄暗かった。


僕の胸の奥で、嬉しさと虚しさが複雑に絡み合って渦巻いていた。


二人が来てくれたことは、本当に嬉しかった。

けど、それ以上に……


―――がんばった


僕はがんばった。


何のために?


みんなに、認めてもらうために。


けど、それはあくまで目標であって、望みではない。

僕が本当に欲しかったものは、由加里先生からの賞賛の言葉だった。

がんばったな、と褒めてもらいたかった。

そのために、がんばったのだ。


それなのに。

僕が残したものは、いい結果どころか、一週間の自宅謹慎という身に憶えのない不名誉。


一週間……

言い換えれば、一週間以内に立ち直り、再び学校に通えということか。

1ヶ月以上の努力が無駄になった絶望から、たった一週間で立ち直れ、と。


そんなの―――


「ふざけんなよッ!」


叫び、椅子に掛けてあった学校の鞄を床に投げつける。中から教科書やノートが床に散らばった。


「…………ちくしょう」


悔しい。

これまで何度も、虐められたり、理不尽な思いをしてきた。

けど、こんなにも悔しいと思ったのは初めてだった。


床に散らばった教科書を拾う。表紙が折れ曲がり、中身が黒く塗りつぶされた数学の教科書。


「くそ……ちくしょう……」


「ガンバレ!」が塗りつぶされた、教科書。


「くそッ!」


思い切り壁に、投げつけた。


なんなんだ、僕は。

なんだったんだ、これまでは。


崩れるように床にへたり込み、ベッドに寄り掛かる。


薄暗い部屋の中で、僕は自分の姿が世界から塗りつぶされているように感じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る